インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

平服でご出席ください

勤務先の学校法人の理事長が亡くなり、学園全体で「お別れの会」が行われることになりました。我々教職員もぜひ献花をということで参加してきたのですが、案内のメールには「平服でお越しください」と書かれていました。この平服というのは、いかにも日本的な表現だなあと常々思っています。

試みにネットの辞書で「平服」を引いてみると、このように書かれています。

ふだん着ている衣服。また、その服装。ふだんぎ。⇔礼服。
[補説]冠婚葬祭の招待状などで「平服でご出席ください」とある場合は、ふつう略礼装またはそれに近い服装を指し、カジュアルウエアは含まない。
goo辞書

そうなんですよね。平服だから普段着ている服、つまりカジュアルウェアでいいんだと理解すると、場違いな格好になってしまうという。何十年も前の若い頃、私はこれで恥ずかしい思いをしたことがありました。でも、だったらもっと明確に書けばいいのにと思いません?

日本社会にはこういう建前と本音の使い分けというか、本当はこうなんだけど実際には周囲との同調を求めるようなルールがけっこうあります。中国語では“潜規則(qiánguīzé)”といって、在日華人からよくお悩みを打ち明けられる案件でもあります。「もっとはっきり言ってほしい」って。

でも中国語にこの言葉があるということは、かの地にも似たような建前と本音の使い分け、暗黙の了解みたいなものが存在するということですよね。私もそれで、痛い目に遭ったことは何度もあります。だからお互い様ではあるのですが、個人的にはこのドレスコードみたいなのまで曖昧模糊とさせておく必要はないんじゃないかと思います。

うちの学校は外国籍の職員も多数働いていることですし、はっきり「黒の礼服でなくても構いませんが、カジュアルウェアではなく、ビジネスウェアで」とか「ジャケットとタイ着用」などと書いたほうがいいんじゃないかと。それじゃあまりに直截で奥ゆかしくない、本邦の文化には馴染まないとおっしゃるかしら。


https://www.irasutoya.com/2016/11/blog-post_4.html