インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

ニッターズハイ!

マンガ『ニッターズハイ!』の第2巻が発売されていたので、Kindle版を買って読みました。ケガで陸上選手としての夢を絶たれた主人公の高校生が、手芸部で「ニット」という新たなフィールドを見つけていくというお話。陸上から手芸へという転換が意外なら、その主人公が男子高校生というのも意外です。


ニッターズハイ!

いや、男子高校生が手芸部でニットを編んだって構わないではないですか。いまのこの時代、女子・男子というたて分けをすることそのものがあまり意味を持ちませんし、日本ではともかく、諸外国を見渡せば編み物を職業としている男性はけっこういます。その日本にだって、テレビの手芸番組で教えておられる広瀬光治氏のような方がいますよね。もっとも職業ではなく趣味での編み物というと、まだまだ少ないような気はしますが。

私は20代から30代にかけて編み物を趣味にしていました。故・橋本治氏の著書で刺激を受けて独学して、セーターを編んだり毛糸を草木染したりしていました。

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当時中国語学校の初級クラスにいて、自分の趣味について述べるという授業があり、私が編み物が趣味だと言ったら先生が「珍しいですね」と驚いていたことを思い出します。それくらい男性と編み物は結びついていなかったんですね。それを考えると、『ニッターズハイ!』のようなこうしたマンガが登場してくることじたい、すばらしいなと思います。

さて、かんじんの本作ですが、編み物にひかれていく主人公を中心に、いろいろとわけありらしい男性たちが登場して、人間関係が交錯していきます。ネタバレになるのであまり書けませんが、登場人物それぞれが過去と現在に何らかの鬱屈なり心の傷なりを抱えていて、それが編み物によって救済されていく……というのが通奏低音になっているようです。

それと、登場する男性が全員イケメンと言うか美男子というか美青年というか、とにかく清浄で無臭な人々。かなり現実離れした設定ではあります。またこうした青春物語にありがちなベタな恋愛の要素は(いまのところ)皆無で、BLのカテゴリーにはかなり近いけれど、今後の展開を予想するに、おそらくそこにも入らないと思います。いわゆる「ブロマンス(Bromance)」のひとつかと。

とまあ、無粋なカテゴライズはともかく、第2巻では作中でかぎ針の編み方が細かく図示されていたり、巻末には詳細な編み図が付されていたりして、そう、これはかなり編み物の実際をリアルに紹介しながらも、作品自体はファンタジーという、なかなかに新しいマンガのジャンルを切り開いています。ランナーズハイならぬニッターズハイという題名もいいですね。確かに編み物が興に乗ってくると、妙な高揚感を覚えるものです。

読んでいると、また編み棒を手にしたくなります。老後の趣味は編み物だな、やっぱり、と思う……のですが、その一方でほとんど「亜熱帯」といってもいいほどの気候になりつつある日本では、ニットの出番が極端に減っているんですよね。特に私は無類の暑がりですから、よけいに。編み物は自分で編んで自分で着るというのが醍醐味なんですから、ちょっと複雑な心境です。