インタプリタかなくぎ流

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ウクライナ侵攻で“碳中和”は早まる?

通訳学校は学期末ということで、外部から専門家の講師をお招きして通訳実習を行いました。今回は日本企業でエネルギー関係の新素材開発に携わっておられる中国人の専門家にご講演をお願いし、逐次通訳と同時通訳のクラスがそれぞれ日本語に訳すという実習でした。

講演の中に“碳達峰(tàndáfēng)”と“碳中和(tànzhònghé)”という言葉が出てきました。それぞれ二酸化炭素排出量が減少に転じることと、排出量と吸収・除去量が差し引きゼロになること、つまり「カーボンピークアウト」と「カーボンニュートラル」にあたる言葉です。日本やEUなどはすでにピークアウトして、2050年にカーボンニュートラルを目指すと宣言しているそうです。

ところで、ロシアがウクライナに侵攻し、欧米を中心にロシアへの制裁が行われつつありますが、日米などとEUの間で温度差があるとも伝えられていました。EU各国はカーボンニュートラルを目指す中で、例えば石炭火力発電から撤退して天然ガスに切り替えるなどの措置を講じてきたわけですが、その結果ロシアの天然ガスへの依存が高まっており、それを切り札として持っているロシアへ強い制裁を発動しにくいのではないかというわけです。確か日本が輸入しているロシアの天然ガスは全体の一割ほどですが、ドイツは半分近くを依存していたはず。

それで、講演後の質疑応答の時間に素人考えでこんな質問を出しました。「ロシア産天然ガスへの依存を見直すとなると、結果的にEU各国のカーボンピークアウト目標は後ろにずれ込むことになるのでしょうか」と。

講師の先生のお答えは明確に「否」でした。むしろ今回のウクライナ危機をきっかけとして、再生可能エネルギーなど新しいエネルギー源の確保に向けての努力が加速することになり、カーボンピークアウト目標がずれ込むどころか、ひょっとしたら前倒しになる可能性もあると。なるほど。

今回の侵攻はもちろん決して許されるものではありませんが、これがきっかけになってさらに脱炭素社会への取り組みが加速するのはよいことだと思います。EUへの天然ガス供給を手持ちの切り札として持ちつつ侵攻を始めたプーチン氏ですが、大きな誤算になるのかもしれません。
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https://www.irasutoya.com/2017/09/lng.html