インタプリタかなくぎ流

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新宿西口のメトロ食堂街

先日、新宿駅西口地下にある「メトロ食堂街」が閉館になるというニュースに接しました。
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ここは学生時代からよく利用してきた場所だったので、とても残念です。パーコー麺(排骨麵)の「万世麺店」、カウンターで天丼が食べられる「新宿つな八」、洋食とパンの「墨繪」、蕎麦の「永坂更科布屋太兵衛」などなど……なかでも「永坂更科布屋太兵衛」の立ち食いコーナーでのみ販売している「肉天そば」はよく食べました。

関東風の濃いめのつゆに、大きなかき揚げが載っているだけなのですが、このかき揚げは豚肉のブロックとネギがたくさん入っていて、かなり「食べで」があります。最初に食べたときは「なんてぜいたくな立ち食い蕎麦なんだ」……と驚いて、それから数えきれないくらい食べてきました。最初は確か450円くらいだったかな。ほかの立ち食い蕎麦よりかなりお高い値段設定で、立ち食い蕎麦なんだけど「自分へのご褒美」的な不思議な一杯なのでした。

ここのお店は奥にちゃんとした(?)座って食べられる蕎麦屋さんもあって、その一角を利用して立ち食いコーナーがあるのですが、食券を買ってカウンターに出すと店員さんが小窓から奥の厨房に向かって「いっぱ〜い」と声をかけます。すると厨房から湯通しした麺がお椀に入って差し出され、カウンターでそれに天ぷらなどをのせ、つゆを注いで供されるというスタイル。つまり蕎麦自体は奥のお店と同じなんだけど、立ち食いにしているぶんお安く食べられるというシステムなんですね。そして「肉天そば」は、このカウンターにしかないメニューなのです。

メトロ食堂街が新宿西口の再開発に伴って九月末で閉館ということで、食べ納めに「肉天そば」を食べに行ってきました。値段は820円(!)になっていました。もはや立ち食い蕎麦の値段ではありません。以前は「春菊と小海老のかき揚げ天そば」というのがあって、それも大好きだったんですけど、普通の野菜かき揚げ天そばになっていました。とても柔らかい「イカ天そば」はいまも健在でした。

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蕎麦にのせる刻みネギは、以前は取り放題の容器がカウンターに置いてあったのですが、コロナ禍の影響でしょうか、小皿での個別提供になっていました。それでも「肉天そば」は不動のおいしさ。食べながら、いろいろなことを思い出しました。出版社で編集兼営業をしているころ外回りの途中で寄ったなあとか、留学の奨学金を獲得するために仕事を辞めて試験勉強していた頃にたまの贅沢で食べたなあとか。

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メトロ食堂街は、この立ち食いコーナーからパーコー麺の万世麺店の方に抜けると、その先の怪しげな(失礼)雑居ビルの地下につながっていて、そこから地上に出ると目の前が焼き鳥横丁でした。いまは新しいビルになってユニクロが入っており、直接抜けることはできなくなっています。あの抜け道も懐かしいです。当時は西武新宿駅を利用していたので、焼き鳥横丁の「つるかめ食堂」や「ささもと」なんかにもよく行きましたねえ。

再開発はまあ利便性や耐震性の向上など理由があるのでしょうから仕方がないことですが、新宿も、それから渋谷も、こういう「ダンジョン」的な場所と個性的なお店がどんどんなくなっていくのはさびしいですね。日本全国の駅ビルがみーんなルミネとかエキュートみたいになっちゃって、同じようなテナントばかり並んでるのはつまらないです。

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