インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

ドラマ『路』で感じた「物足りなさ」

録画してあった日台共同制作のテレビドラマ『路 ルウ〜台湾エクスプレス〜』を見ました。高鐵(台湾新幹線)の建設当時、つまりこのドラマの時代背景よりほんの少し前に、私も台湾の別の建設現場で働いていたので、なんだか懐かしい思いにひたりました。

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ただ、その一方でドラマ自体にはあまり入り込めませんでした。全3話と短いのに、いくつもの恋愛ドラマを同時進行させ、なおかつ台湾新幹線の開業に向けて奮闘する人々のお話が主軸に据えられているんですから、どうしたって総花的になります。結果、どの人間関係も深く描ききることができずに消化不良感が残りました。後半は妻と二人で「なんでこの二人はいきなりこんな話してるの?」とか「本命のカレはどこに行っちゃったの?」とかツッコミ合戦に……。

まあ全3話では仕方がなかったですよね。日台共同制作ということで、一部には台湾語のセリフも登場しましたし、台北だけでなく高雄のそのまた田舎の(まさにそこに住んでいました)風景なども映し出されましたし、建設現場で「ご安全に!」と呼び交わすのも毎日やっていたので、個人的には「おおっ」と盛り上がる部分もあったのですが……。いつかまた、今度はもっと長いスパンで、日台共同制作の重厚なドラマを見たいものです。古いですが、かつて日中共同制作で作られた『大地の子』みたいなの。

大地の子』は上川隆也氏の出世作ですが、氏はかなり頑張って大量の中国語のセリフを話していました。いま聞くと少々無理もあるんですけど、でもその無理を承知で若い才能に賭けた当時の制作スタッフに拍手を贈りたいと思います。相対する中国側の俳優さんも素晴しいリアリティで。

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https://www.nhk.or.jp/drama/dodra/ruu/html_ruu_story.html

そういえば『路』に出てくる「台灣高鐵」の人々が主に共通語として使っているのは英語でした。これは欧州のスタッフも入っていたから、実際に当時の、特にオフィスワークをしている部門の人々は英語が共通語だったのかな? それとも上川隆也氏みたいに、俳優さんに中国語でセリフを言ってもらうのはちょっと難しいので、英語が共通語という設定にしたのでしょうか。

たぶん前者なんでしょう。かつて私が台湾の会社に赴任した時、日本側の責任者から「かつてはうちの会社も英語を共通語にして日台双方がコミュニケーションを取っていた」と聞かされたことがあります。でも日本側も台湾側も英語が母語という人はほとんどいない中、お互いに慣れない英語でやり取りするうちに細かな齟齬が生まれ、それが時に大きな誤解や損失につながったという反省があったのだそうです。それで専任の中国語通訳者を雇って、日台双方が母語で十分に自分の考えを表明することにしたと。

プロの通訳者を信頼して、英語から母語へ仕事の言語を戻したという会社の英断は素晴しかったと思います。でもその一方で、この台湾赴任が実質的に通訳者としてのデビューだった私にとっては、かなり荷の重い任務でしたが。

台湾のお話なのに、結局多くの人が英語でやり取りしている……そんなところも、このドラマに今ひとつ入り込めなかった理由かもしれません。もちろんこれも、中国語学習者の勝手な感想なんですけど。