インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

ウェブ会議アプリでの話し方

通訳学校に通っていた頃、ダブルスクールでアナウンス学校にも通っていた時期がありました。通訳者は人前で話す職業なのだから、話すことそのものの訓練も必要ですよと先生に言われて。もちろんリスニング能力が高いとか、ボキャブラリーが豊富だとか、訳出が正確だとかも大切なことですが、それと同じくらい「どう話すか」ということも大切ですよと。

それで、アナウンス専門学校の夜間講座や、NHKが年に何回か行っていた短期講座、さらにはボイストレーニングのマンツーマンレッスンなどに通いました。アナウンス学校の生徒さんは主に「局アナ」を目指す若い方々が中心で、ボイストレーニングは歌手や声優さんを目指す方が多く、私が「通訳者になりたいから」と志望動機を述べると、どこでも「そういう方は珍しいですね」という反応をされました。

でも、どんなにリスニングが上手くいって、背景知識とともに深い理解ができて、頭に素晴らしい名訳がひらめいたとしても、それを適切に話すことができなければすべて「台無し」になってしまいます。声が小さいとか、滑舌が悪いとか、その場にそぐわない話しぶりだとか……本当にその通りだなと思って、せっせと通っていたのです。その結果、アナウンサーのような話し方までは体得できませんでしたが、とりあえず大きな、よく通る声を出せるようにはなりました。

その後、学校で教える仕事についてからも、通訳学校の受け売りで「話し方が大切!」てなことを強調してきました。アナウンス学校での授業にヒントを得て、教室で学生さんの自己紹介を撮影したのちそれをみんなで視聴して「ダメ出し」をやりあったり、演劇訓練のメソッドを応用して発声練習などを行い、さらには語学訓練の一環として演劇にまで取り組んだりしてきたのです。それもこれも、人前で話すこと、つまり「パブリック・スピーキング」の大切さを繰り返し強調するためでした。

……なのに。

新型コロナウイルス感染症の影響を受けてオンライン授業(遠隔授業)が不可避となってからこちら、Zoomなどのウェブ会議アプリに付属した簡便な録画機能を使って、いくつかのレクチャー動画を撮ったのですが、改めて思いました。きちんとしゃべるのって難しいと。

従来の対面授業でも日々人前でしゃべってきましたから、いまさらしゃべるのが不得意とまでは言いません。それでも録画してみると、アラが目立ちます。冗語が多く滑舌も悪いのは分かっていましたが、それ以外にも視線が定まらず(これはウェブ会議では仕方のないことですが)、身体がやけにふらふら・くねくねしています。

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かつて「ニコニコ生動画」で何度か通訳したとき、目の前にあるモニタに映る自分の姿にげんなりしたことを思い出しました。「ニコ生」は特に隣に俳優さんやアイドルさんがいるので、彼我のコントラストも一層強烈になります。さらにああした動画は視聴者がリアルタイムでコメントを書き込み、それが画面を横に流れていくのですが、ときおり「通訳顔色悪い」などと出るのでさらにヘコみます。録音した自分の声はたいてい違和感があるものですが、録画した自分の姿はさらにその違和感が倍加されるような気がします。

しかし、それがまごうかたなき他人から見える自分の姿なんですよね。いや、俳優さんやアナウンサーさん、声優さんってすごい。たぶん話し方の技術もさることながら、見えないところで「映像にどう映るか」を研究されているのだと思います。ふだん「パブリック・スピーキングが〜」とか「人前で話すこととは〜」などと学生さんにしたり顔で語っていた自分が恥ずかしいです。

昨日はSNSでこんな動画を教えていただきました。ウェブ会議アプリで話す時に、顔が明るく見えるライティングを工夫しましょうというtips集です。とても参考になります。実際、この動画の通りにパソコンの位置を上げて、窓からの自然光を受けるようにしてみたら、ずいぶん「顔色悪い」感じはなくなりました。


How To Look Good on Video Calls for Zoom FaceTime Skype

ただ、これもSNSで教えていただいたのですが、オンライン授業などの動画は、特に授業などのレクチャーの場合は、あまりきっちり喋らないほうが学生さんも疲れないんだそうです。冗語も適度にさしはさみ、すこし「ユルめ」の態度で話したほうがよいのだとか。なるほど。

でも著名なユーチューバーさんなんかは、よくよく観察しているとかなり話し方が上手で滑舌も良く、冗語もほとんどありませんよね(特に中国語圏の方)。それでも内容はよく頭に入ってきます。あれは動画の編集方法や、画面に現れるテロップ(字幕)、さらには効果音など様々なテクニックを駆使しているからだと思います。オンライン授業の準備に追われているこちらはそこまで「凝る」ことはできませんから自然体で話すしかないのですが、それでももうちょっとキチンとした話し方をしたいものだと思いました。

アナウンス学校に通っていた日々を思い出して、もう一度鍛錬し直したいと思います。