インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

教室へのICT活用入門

書名の通り、ICTつまりコンピュータやインターネットを活用した「情報通信技術」を教育にどう持ち込むかについての「基本のキ」から解説した本です。ごくごく初歩的な用語の解説や、さらに学びたい方向けの参考書籍なども豊富に載っていて、初心者にやさしい作りになっています。

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教室へのICT活用入門

今回の新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、学校現場では否応なしにオンライン授業や遠隔授業、つまりはこれまでのやり方とはかなり違った形での授業展開を模索せざるをえない状況になっています。そんな中、既存の授業と遠隔授業という単純な対比ではなく、既存の授業の延長上にどうICTを持ち込んで活用するのか、さらには既存の授業とはまったく違った発送の授業がICTの活用で可能ではないのか、といった視点で分かりやすく書かれているのがこの本です。

刊行は昨年末ですが、その時はまだ今回の感染症問題が顕在化しておらず、その意味では今回のような「非常時」に対応することを目的として書かれたものではないのですが、結果的に現場で否応なしに対応を迫られている教員(例えば私のような)にとっては、いくつかの方向性を指し示してくれる本という意味でとても貴重な一冊だと思いました。

反転授業やアクティブ・ラーニング、ID(インストラクショナル・デザイン)やブレンディッド・ラーニングなどについても初歩的な解説があります。私にとってはそのどれもが、今回の事態以前から興味はあったものの日々の仕事に追われてなかなか新しい試みにまで踏み出せていない領域でした。その意味では今回のような「否応なし」の展開がそうした領域に自分の目と手を向けさせるきっかけになっています。まことに情けないことではありますが。

その一方でこの本を読んで、そう落胆ばかりしたものでもなく、これはなんとかなるかもしれないという一種の勇気みたいなものもわいてきました。たとえば知識のインプットとアウトプットの場を逆にするという反転授業については、通訳学校ではすでに似たような形で訓練が組まれていたりします。通訳という作業は事前の予習がとても重要であり、そのために対面授業よりもかなり大きなボリュームで事前学習や調査、知識のインプットなどを行っています(教師によってかなり違いはありますが)。eラーニングのようなものについては、かなり以前から断続的ながらも取り組んできましたし、恐れることなくできるところからやっていけばいいのだと思い直しました。

この本は基本的に日本語学校での日本語教育を念頭に書かれています。私がインターネット上で色々と情報収集していても、様々な試みにチャレンジしてそれを発信されている方には日本語教育業界の方が多いように感じます。それを自分が担当しているいくつかの(日本語教育ではない分野の)授業にどう応用するかが当面の課題です。日本語教育ではないとはいえ、言語に関する教育の一部ではあるわけで、この本に載せられた様々な事例やアドバイスはとても参考になると思いました。

これは余談、かつ極私的な印象ですけど、教師って、特に語学業界の教師って、こう言っちゃなんですけど旧来の方法を墨守したがって新しい考え方に耳を傾けないエキセントリックな方がままいらっしゃるんですよね。かくいう私も、そうありたくはないと思いながら、いくぶんかはそういう「業界の空気」に染まっている部分があるのかもしれません。だから今回のこの自体に際しても初動がすごく遅れたことを反省しています。

この本を皮切りに、様々な関連書籍にも手を伸ばしていこうと思っています。また筆者の藤本かおる氏が「ICTを利用した教室活動に必要なスキルとは」と題された章で述べておられるように「わからないことがあった時、とにかくインターネットを使って調べまくるのです!」……いやはや、本当にそうなんですよねと思うと同時に、そんな当たり前すぎるくらい当たり前のことさえこうやって感嘆符つきで発破をかけられなきゃならないってところが語学教師におけるエキセントリックさの所以なんだよなあ、と思いました。おっと、最後はほとんど悪口ですね。ごめんなさい。