インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

最前列に座るのが好き

語学の講座やセミナーなどで講師を担当しているとよく分かるんですけど、最前列に座ってらっしゃる方ほど熱心で、飲み込みがはやく、こちらの印象にも残ります(ときに最前列で爆睡、という方もいますが)。逆に前方の真ん中だけ「ぽかっ」と空いていることもけっこうあって、そんなときは正直こちらもテンションが下がり、思うように話せなかったりします。

失礼ながら、後ろや隅に座っている方ほど「その他大勢」感が強くなるんですよね。見られたくない、話しかけられたくない、当てられたくない……というスタンスなのかなと思っちゃう。まあ実際には、単に恥ずかしいとか悪目立ちしたくないという日本人的“含蓄”(中国語で「控えめ」)の表れなんだろうなと思って、こっちから見ちゃうし、話しかけちゃうし、当てちゃうんですけど、やっぱ人間ですから、初手から敬遠してこられると、それだけこちらの心も冷めちゃうのです。

だから、自分が生徒になるときはなるべく前に座ろうと思っています。以前は後ろや、中ほどの壁寄りに座ることが多かったんですが、一番前に座ると授業の充実感が違うような気がするのです。単純に講師の声がよく聞こえ、板書の文字がよく見えるからかもしれません。最近は老眼もひどくなってきましたし。

特に、これは気のせいかもしれないんですけど、講師の先生がピンマイクなどを使って話されるようなタイプの講座など、スピーカーから出てくる声と同時に一番前で肉声も聞いているほうが、断然頭に入ってきやすいことに最近気づきました。なぜかは分かりません。距離の近さと相まって、直接話しかけられている感が強いからかもしれません。

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https://www.irasutoya.com/2014/08/blog-post_28.html

とはいえ、映画や演劇は最前列だと見にくいです。特に映画は、最前列だと何が何だか分からない。ところが、これも最近発見したんですけど、なぜか能楽だけは最前列が一番豊かな気分になれます。能楽堂にもよるでしょうけど、一番前は自分の目の高さが舞台面よりも下かほとんど同じくらいになります。ですから演者を見上げるような形になるのですが、これが臨場感が半端なくて素晴らしいの。

お囃子や地謡の音楽が、能楽堂の屋根に反射して降り注いでくるような感じがするのも心地よいです。舞台前方ど真ん中に作り物(舞台装置)が置かれることもあるので、そんなときはちょっと右側、ワキ柱近くに座るのも好きです。ここからだと揚げ幕まで相当なパースペクティブがつくので、そのダイナミックさも捨てがたいものがあります。ただ能楽堂の最前列チケットは、いつも真っ先に売り切れてしまうプラチナシートなのが玉に瑕。きっと同じように考えてらっしゃる方が多いからじゃないかと思っています。

教室でも劇場でも、後ろから全体を見渡せるのが一番お得で良いような気がするんですけど、実際にはそれだけ印象が薄まって散漫になるだけなのかもしれません。「舞台がよく見えるから最後列の真ん中がいいのよ」ってのは『ガラスの仮面』に登場する月影千草先生クラスの方が言うことで、私みたいな初学者は、まずは最前列がベストと心得ています。