インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

ホントに家を買うつもり?

先日ネットで見つけた、こちらの記事。

toyokeizai.net

自動車や新築の家、結婚式、そして教育……これまで購入、あるいは出費して当然と多くの人が考えてきたこれらが、今とこれからも本当に必要なのか、と問う対談です。私は家は「賃貸派」で、結婚は二度しましたが式は挙げたことがなく、自動車も地方都市や田舎ならいざしらず東京に住むのなら不要と考えてきた人間なので、一読快哉を叫びました。

家は賃貸派といっても、経済的にとても買えなかった、買うことすら想像できなかったというのが正直なところです。ただ、いまこの歳になって、ローンなどの負債が全くない状態で暮らせていることをとてもありがたいと思うようになりました。

家を持つことに関してはみなさん一家言おありでしょうから私がいまさら贅言を費やすまでもないのですが、こんなに自然災害が多くて、働き方も世の中のあり方も流動的になりつつある日本というこの国で、若い頃から何十年もの負債を抱えてマイホームを持つ意味があるのかな、と思います。

私は二度結婚していますが、一度目は非常に若く貧しかったので、結婚式を挙げませんでした。実家に親戚だけが集まって会食をしただけです。近所の仕出し屋さんに頼んで、祝いのお膳を用意してもらいました(親がお金を出してくれました)。二度目は四十歳を過ぎてからだったので、細君も私も「いまさら……ねえ」という感じで、結局婚姻届をお役所に出しただけです。親戚を集めての会食はおろか、友人との食事会すらしませんでした(でもワインスクールのクラスメートがレストランで祝ってくれました)。

自動車は、これはもう東京の比較的都心近くに「職」と「住」がある方ならお分かりかと存じますが、要らないよねえ。公共交通機関で充分です。それにこの先カーシェアリングや自動運転の実現がそう遠くない未来に迫ってきた現在、個人で、それもローンを組んでまで車を持つ意義はどんどん薄れていくんじゃないかと思います。

それでも家を買わせようとする

先日、東京メトロ銀座線の外苑前駅で降りた際、ホームに不動産情報サイト「スーモ」の無料配布資料を置くラックがあるのを見つけました。ラックには「年収×家の価格」と対処された雑誌ふうの小冊子がぎっしり置かれていて、どうやら新築マンションを売り込むための宣伝媒体のようです。私はマイホームに全く興味がないので素通りしたのですが、数日経ってもう一度同じ場所を通りかかったときに少なからぬ衝撃を受けました。ラックの小冊子がほとんどなくなっていたからです。

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無料だからすぐになくなるのは当たり前かもしれませんが、この時代に新築マンションを購入しようと考える(それも若い世代の)方がそんなにいるのかしらと変な好奇心が起動して、私も残り少ない中から一冊頂戴してきました。それがこれです。

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冊子のほとんどは「マンションポエム」満載の不動産広告ですが、住宅ローンの組み方や物件の選び方、カスタマイズの仕方など若い方々に「夢のマイホーム」を買わせるための手練手管が……おっと、言葉が過ぎました。親身なアドバイスがぎっしりと盛り込まれています。

「今の家賃並みで無理なく買える?」「人生100年時代の住まい選び」「私だけの心地よい部屋をつくる」……こうしたフレーズは、「賃貸の家賃を払い続けても、自分には何も残らないんだよ? だったら、それと同じか少し多いくらいのお金をローンで払って、最終的に家を手に入れた方がいいじゃない」といった周囲の声(私も知人・友人に何度となく言われてきました)と相まって、マンション購入を考えている若い方々の背中を押すのですね。

これはまあその人の生き方や人生観の問題ですから「大きなお世話」なのですが、右肩上がりの経済成長が当たり前だった時代ははるか昔に過ぎ去り、賃金がどんどん上がっていくわけでもなく、大企業だって、あるいは銀行や証券会社といった誰もが憧れた業界だって先行きを見通せないこの時代。しかも人口の大減少を目前に控えて社会全体がこれまでのありようとは全く違う展開をしていくことがほとんど自明となってきたこの時代に、30年とか35年のローンを組んでもマンションを買いたい・買わせるってのは一体どういうことなんだろうと思ってしまうのです。

この記事では、新築の家や新車への「信仰」を斬ったあと、返す刀で教育業界にも斬り込みます。

けど「その産業自体どうなの?」と思うわけです。教育産業で言うなら、たとえば専門学校や通信の資格教育なんか、相当に悪質だと思いませんか? 資格を売りつける、教育を売りつける。夢と希望を見させて、でもそれがその後の所得につながらない。回収できないお金を投資させるワケです。

教育業界といってもいろいろあり、大学なども含めてちょっとひとしなみに語り過ぎだとは思うけれど、実は私も最近、いやここ数年同じような問題意識を抱えて悶々としています。この件については長くなりそうなので、また稿をあらためて考えてみたいと思います。