先日、カナダのモントリオールで開催された女性外相会合に河野外務大臣が出席した件が話題になっていました。
各国の女性外相が居並ぶ中、真ん中でたった一人の男性外相として記念撮影におさまった写真が取り上げられ、Twitter上で「炎上」したり、河野外務大臣ご自身がそれらを「フェイクニュース」だと反論したり、ひとしきり議論になったのでした。簡潔なまとめが『ハフィントンポスト』に載っています。
外務省の説明によれば、この会合は女性だけでなくG7各国の外相も招かれたものであり、かつG7のうち6カ国は男性が外相を務めているのだけれども、日本以外はすべて欠席したためにこうなったとのこと。
確かにその通りで、まああの写真がいかにも「ノコノコ出て行った感」を惹起するような構図だったからTwitterでも厳しい意見が出ちゃったのかなと、河野氏にちょっと同情した部分もありました(G7のうち6カ国は男性が外相を務めているということ自体がちょっとどうよ、という思いはありますが)。
それはそれとして、私があの写真で一番違和感を覚えたのは河野氏が着用していらしたピンクのネクタイです。「女性外相会合だからピンクのネクタイ」というその発想がなんかもう、何周もの周回遅れ感満載で。河野氏、あるいはこのネクタイを用意した側近はたぶん連帯の意思を示したくらいに思ってらっしゃるのかもしれませんけど。
つくづく、日本人の一部の(あるいはまだまだ多数ともいえる)こうした古い意識の頑迷さやジェンダーに関するリテラシーの乏しさにため息がでます。
もっとも、河野氏は「いや、私は普段からピンクのネクタイをすることもある。今回もたまたまだ」とおっしゃるかもしれません。過去のニュース映像を精査してその妥当性を検討してもいいけど、めんどくさいからやめておきます。
……と思っていたら、先日、こんなテレビCMに接しました。拡大鏡「ハズキルーペ」の新しいCMで、銀座あたりの高級クラブとおぼしきお店が舞台です。
渡辺謙氏が資料を放り上げながら「小さすぎて読めない!」と絶叫する旧CMも、菊川怜氏がお尻でハズキルーペを踏んだり「だぁい好き♡」とウインクしたりするシーンに「なんだこれ」と違和感を覚えましたが、今回の新CMはその比ではありません。
お尻で踏むシーンは四倍増しになり、舘ひろし氏がワインのヴィンテージを確認して「これ、咲(えみ)の生まれた年だね」とつぶやくなど、気持ち悪さ全開です。これはたぶん「確信犯的に(本来の意味からすれば誤用ですが)」炎上を狙って演出されていますね。
しかしこのCM、「どこにそんな違和感が?」とおっしゃる方も多いのかもしれません。特にハズキルーペを購入されるような中高年層の方々、なかんずく男性には。
かつて会社勤めをしていた頃、客先の接待でこういう場所によく連れて行かれました。東京なら池袋とか赤坂とか、台北なら“五木大学*1とかですね。タバコの煙もうもう、高価なウイスキーの水割りに乾き物系のおつまみ。そして女性性を全面に押し出した接客と「アフター」サービス。
こういうの、私はイヤで仕方がなかったのですが、同僚や上司の中には、こうした場所がスキで仕方がない人もいたのです。それもかなりの割合で。若い世代の中には「僕はこういう場所は苦手です」とおっしゃる方もちらほらいましたが、そういう方たちも社内で育って行くにつれて、スキに変化していくのかもしれません。
旧作もそうでしたが、ハズキルーペの新CMは、途中にネイルが見やすいといった一見女性の視点も盛り込まれているような作りです。でも高級クラブでのやり取りという設定からしても、やはりここには徹頭徹尾、男性の女性に対する旧態依然とした視線、女性を消費する対象としてしか見ていない古い価値観が透けて見えます。先日エントリをあげた『東京カレンダー』にも通じる視線です。
もうそろそろこういう「昭和的」なオヤジ目線の人間観は卒業して、新たなステージに進んではどうかと思うのです。“Because it's 2015!(カナダのトルドー首相)”ならぬ「だって、もう2018年じゃないですか」ってことです。
いまのところ、このハズキルーペのCM表現に対して、表だった議論は巻き起こっていないようです*2。日本ではどうも、こうした男性の女性に対する視線なりアプローチなりにかなり寛容な「伝統」がありますよね。例えば男性が性風俗サービスを利用することについて、そういうところに行ってこそ一人前の男だ的なもの言いがあり、私も若い頃は何度か聞かされました。また例えば芸人さんなどが「芸の肥やし」と称して「武勇伝」を語るなどの「伝統」もありますね。
いま一緒に仕事をしている韓国人の同僚に聞いたところ、韓国にももちろんそういう状況はあるけれど、少なくともおおっぴらに堂々と開陳するたぐいのものではないという意識はあるし、仮にこのハズキルーペのようなCMが放映されたら、かなりの非難が巻き起こるだろうし、芸能人が「武勇伝」を語ればほとんど芸能人生命を絶たれるくらいのバッシングがあるだろうとのことでした*3。
こうしたCMが意図的にせよ鈍感からにせよ堂々と放映されちゃう日本は、世界の潮流に照らしてもかなりの周回遅れだと思います。女性閣僚が減り続けて今回の内閣改造ではたった一人になったにもかかわらず、その現状を質されて「(唯一の女性閣僚である片山さつき氏は)二人分も三人分もある持ち前の存在感で……」などとはぐらかす首相会見を聞きながら、どうやったら私たちは周回遅れを少しでも取り戻せるのだろうと考えています。
▲林森北路界隈。「風傳媒」の記事より。
https://www.storm.mg/lifestyle/233075