インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

「さん」付け原理主義

昨日の東京新聞朝刊にこんな小さな記事が載っていました。警察庁の女性警視が、同僚の男性警視から受けたセクハラが「公務災害」に認定されたという記事です。

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見出しは「『ちゃん』で呼ばれ、セクハラも」となっていますから、「ちゃん」付けで呼ばれたうえにセクハラまで受けたという意味に取れますけど、これ、ややもすると「ちゃん」付けで呼ばれること=セクハラなのか、なんて息苦しい社会なんだ、みたいな見当違いの意見がわいて出るんじゃないかと、心配になりました。

案の定、Twitterを検索してみたら、読売新聞の記事についてたくさんのツッコミが入っていました。

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この見出しだけでは、まさに「『ちゃん』付けだけでセクハラ認定」されたかのようなミスリードを誘うじゃないかというわけです。本文を読めば「女らしくしろ」と言われたり、職場や酒席で卑猥な言葉を浴びせかけられたりしたことが主因であるのにもかかわらず。

本当にその通りですよね。上記のツイートで「同僚が女性警視に「ちゃん」付け…公務災害認定」となっている見出しは、実際には「…」の部分にもう少し文字があって(ツイートの形式上、省略されたんですかね)「同僚が女性警視に「ちゃん」付け セクハラによる疾患で公務災害認定」となっていました。それでも「ちゃん」付けだけでセクハラ認定という粗忽な読みを誘発するおそれはあると思います。

読売新聞側もこれはまずいと思ったのか、この記事は現在削除されています。ちなみに昨日の読売新聞東京版朝刊を確認しましたが、くだんの記事は載っていませんでした。ネット版だけの記事だったのかもしれません。

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ところで、私自身はこの「ちゃん」付け、すごく抵抗があります。例えばアスリートへの「ちゃん」付け。卓球の福原愛氏は幼い頃からスター的存在として親しまれ、「愛ちゃん」と呼ばれてきましたが、今や成人して結婚してお子さんもいらっしゃる氏に「ちゃん」付けはいささか失礼ではないかと思ってしまうのです。

「愛ちゃん」は親しみを込めた呼称なんだからいい? 確かにそうです。福原愛氏ご自身もそう呼ばれることを嫌がってはおられないようですし、夫の江宏傑氏も“愛醬(愛ちゃん:醤油の「醤」が日本語の「ちゃん」と似た発音の「ㄐㄧㄤˋ/jiàng/じゃん」なので、ちょっとした諧謔として使われます)”と呼ばれているそうですし。「愛醬でいいじゃん」ってことですね。

それでも「ちゃん」という呼称が、上記の記事のように「上から目線」を含む可能性がある以上、私はなんとなく危うさを感じてーーそれは、上記の記事に見える男性警視の「上から目線+蔑視」にも通底する姿勢ですーー使えないんです。

けれど、フィギュアスケート羽生結弦氏は「羽生くん」と呼ばれますよね。こちらも主に年上の方からの羽生氏に対する呼称で、これもティーンエイジャーの頃から活躍されてきた氏に対して使われてきた「習慣的」な呼称ですけど、こちらは「ちゃん」ほどには違和感を覚えません。

う~ん、要するに親しみがこもっていればいいけれど、上記の男性警視のように明らかなハラスメントの意図があればアウトということなんでしょうか。なんとなく自分でも腑に落ちません。

ちなみに私、相手の年齢や立場にかかわらず基本的には「さん」付けで呼ぶというのをもう何十年も意識してきました。学校などで同僚の先生方に呼びかけるときも「先生」は使わずに「さん」を使うようにしています。でも、完璧に徹底できているわけじゃありません。例えばお師匠や校長先生を「名前+さん」で呼ぶのは、やっぱりちょっと抵抗があります。

能のお稽古では、稽古仲間のお子さんが一緒に参加していることがありますが、そのときにも私はそのお子さんに「さん」付けで、なおかつほかの大人の方に話すのと同様にしています。要するに「タメ口(ためぐち)」をきかないということです。「○○さんはいま、何の曲をお稽古されていますか?」という感じ。周りの師匠やお弟子さんは親しみも込めて「○○ちゃん」なんですけど、私はどうしてもできないんです。

ここまでくると、これはもう「さん」付け原理主義とでも呼ぶべき状態ですかね。

追記

ここまで書いたところで、SNSにこんな話題が上がっていました。

togetter.com

う~ん、こういう方(特に中高年のおじさん)は時々いますね。ここまで「イタ」くなくても、例えば飲食店などで店員さんに「タメ口」や「○○持ってきて」みたいな命令口調で話す方。そうそう、先日、お店のご主人が若い衆にあれこれ叱るのを聞きながら食べるのがいや、という文章を書きましたが、私は客が「タメ口」で店員に接し、エラそうに話しているのを聞きながら食べるのもいやなんです。

qianchong.hatenablog.com

めんどくさいですね。そんなわけで、ますます外食するのが億劫になってしまうのでした。