インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

義父と暮らせば3

年の瀬も迫ってきましたがね、寒い……。寒いです、築半世紀になんなんとするこの家。細君の実家ですけどね。これまで十数年マンションで暮らしてきましたから、家の中でここまで寒い冬はホント、久しぶりです。留学していた天津や北京も冬は河が凍るくらい寒かったですが、あそこまでの寒冷地になると暖房設備がものすごく充実していて、部屋の中はTシャツ一枚で過ごせるくらい快適なんですよ。

九州にある私の実家は築八十年くらいとここより更に古いですから、あそこも寒いです。前々から「さっさと処分して、こぢんまりしたマンションか何かに移ればいいのに」と言ってるんですが、お年寄りはなかなか生活を変えたがらないんですよね。というか、そういう気力・体力がなかなか出ないの。まあ分かるような気もするんですが。

先回お義父さんが怪しい新聞広告を見て通信販売で購入しちゃった怪しいヒーター、案の定全然効きゃしません。そりゃそうですよ、広告でうたわれていた惹句は「電気代一日わずか〇〇円! 部屋中春のようにポカポカ!」みたいなもんだったそうですけど、お義父さん、それはさあ、マンションみたいな気密・断熱のしっかりした家でのハナシじゃん。うちみたいな「だんねつ? 何それ女優さん?」みたいな薄壁の家じゃ、暖めるそばから熱は逃げていきますって。

お義父さんは、日がなそのヒーターを抱え込むようにしてテレビ見てます。股火鉢じゃないんだから。

こないだも、「あそこの爺さんは必ず買うから」と高いものを売りつけられてるんじゃないかという疑惑を書きましたが、こうやってお金使っちゃうんですよね。でもまあ、お義父さん自身が稼いで貯めたお金だし、買うこと自体も楽しみのひとつですから、頭ごなしに「やめたら?」とは言えません。細君は実の娘ですからやいのやいの言ってますけど。でも、お義父さん、引き売りの魚屋から総菜を買うのはやめた方がいいよ。煮魚二切れで750円は高いんじゃない? 玄関先で買える利便性を加味しても、ちょっとぼられてるんじゃないかと思います。

今日は朝からケアマネージャーさんが来ました。これからの支援をどうやっていくかという打ち合わせ。お義父さん、こないだ「要支援1」に認定されました。MRIの結果からいくと、脳血管性認知症の初期段階だそうです。アルツハイマー性認知症と違って、今後急にがくんと症状が進むこともあるそうです。それと運動障害が出るようになる、と。実際、今はまだ記憶などはしっかりしていますが、歩行がかなり困難になってきていますね、確かに。お医者さんからは「転んで骨でも折ってしまうと寝たきりになっちゃうので、『転ばぬ先の杖』を持つようにしてください」と言われました。

杖ね〜。素敵なステッキでもプレゼントしようかしらと、銀座の三越と伊勢丹メンズ館に行ったんですけど、「こちらトネリコの木を使っておりまして、軽いけれどハリがあって、強度も申し分ありません」みたいな村上春樹の小説に出てくるようなのばかりで、五万円とか八万円とか冗談にならないくらい高価で、あんなもの買えません……と、お義父さんの弟が、以前ケガしたときに使ったことがあるというアルミ製の杖を譲ってくれました。百貨店じゃなくてホームセンターに行くべきだったんですね。

まあ「要支援1」に認定されたことで、まだまだわずかですけど公的なサービスや援助を受けることができます。我々が仕事や帰省などでどうしても家を空けなければいけないときだけ、配食や宿泊など、あと運動不足解消のために週一程度でレクリエーション的な運動、といったところ。一年ほど前から実家へ戻るたびに変化を感じていて、秋から同居に踏み切ったわけですけど、本当によかったと思います。放っておいたら大変なことになる可能性もありましたから。

今日いらしたケアマネさんはまるで腫れ物に触るように義父に接し、こちらの質問にもなぜか明確には答えてくれない……なぜもっとテキパキと、こういうケアが必要で、そのために利用できるのはこれで、と進めてくれないのかなとやや疑問に感じましたが、あれはきっと、あちこちの家庭で「俺はまだそんなもん要らん」とか「押しつけないでくれ」とかいうお年寄りや家族の反応に多々接してきたからなんでしょう。そう考えるとちょっと同情してしまいました。うちのお義父さんは長年民生委員もやっていた人なので、そのへんの理解はスムーズで、「運動? じゃあちょっと行って見ようかね」と前向きでした。

聞くところによると「要支援1」段階でいろいろ対策を考え始める家庭は少ないみたいです。なにもかも公的なサービスに寄りかからずに、自分たちでできることは引き受けていきたいと思いますが、とりあえずは方向が決まってよかったと思います。

あとはもう少し重いハナシについても家族会議を開かなきゃいけないと思っています。考えたくもないんだろうけど、考えとかないといけないいくつかのハナシ。例えばもっと認知症が進んだときに、貯金や財産をどう誰が管理するのかとか、亡くなったときのためにできる準備はしておくとか。

それからもうひとつ、細君は一人っ子で、お母さんは早くに他界していますから、親一人、子一人なんですよね。そこに私が「マスオさん」状態で一緒に住んでる。この状況で、もしお義父さんより細君が先に死んだらどうするか、私が先に死んだらどうするか、などなど……。

まだ早すぎる? いや、かつて住んでいた田舎で、思わず「娑婆だなあ……」とつぶやかざるを得ないケースに少なからず接したことがあるので、この辺りは腹蔵なく話しておきたい……って、自分の実家に関しては全然そういうハナシが進んでないんですけど。