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周恩来秘録

周恩来秘録 上
  周恩来の、主に文革発動期から臨終までの十年間ほどを中心に描く伝記。著者は元中国共産党中央文献研究室という、いわば共産党の「正史」を編纂する部署で、その名も「周恩来生涯研究小組」の組長を務めていたという高文謙氏。氏は1989年の天安門事件連座して批判され、現在はアメリカに亡命している。御用学者として捏造された「正史」を書きつづるのは金輪際ごめん、とこの本を執筆したそうだ。
  上巻はなぜか読みづらく、忍従を強いられるが、下巻から俄然おもしろくなる。『毛沢東秘録』や『マオ』などとくらべると、林彪の評価が少々異なるように感じた。劉少奇の二の舞にはなるまいとあれこれ画策するも、権謀術数に長けた毛沢東の奸計にはまってクーデターを起こすしかないところまで追い詰められてしまった、と割合同情的だ。
  一方、周恩来については厳しい批判もあるにはあるが、おおむね肯定的だ。というより、筆者の周恩来に対する思慕というか敬愛が控えめながらもそこここに感じられる。
  そして毛沢東については、他の類書同様最大最悪の独裁者として描かれている。この点、誰が(もちろん中国国外の)書いても評価がぶれないというのがある意味すごい。今でも天安門広場には毛沢東の肖像画が掲げられ、遺体を安置した毛主席記念堂がそびえ立っているが、このあまりの倒錯にめまいがしそうなほどだ。もっとも経済発展に沸く現代の中国人にとっては、ほとんど「ど〜でもいい」ことかもしれないけれど。