美大を卒業するも就職せず(できず?)、ファインアートの芸術家を目指す二十代後半の男性が主人公。
『東京タワー』のリリー・フランキー氏が、「美術大学というところは特殊な価値観の中、学生が温度の低い優越感を抱いている。もう、そこに入学しただけで自分が芸術家にでもなったような気分でいる」と書いていたが、そうそう、確かにそう。
このマンガの主人公も、在学中はいかに他人と違う人生を歩むかに腐心し、就職などしたら「アート」できなくなると「フリースタイル*1」の道を選ぶ。バイトや、意に沿わない売文ならぬ売画をしながらお金を貯めてはギャラリーを借りて個展を開く*2。煮え切らない恋愛に悶々と自問自答を繰り返す。
だが、描く絵は一向に売れず、ファインアートの理想にこだわるあまりの周囲との乖離が、他人の目には「痛さ」として映る。そして自分もそんな閉塞感に気づきながら出口を見いだせないでいる……というお話。
舞台は筑波大学の芸術学部らしい。そのリアリティあふれる美大生の心理描写から、作者も同校の出身者じゃないのかな、と推測する。それから広告代理店で、クライアントの横暴な要求に振り回されるグラフィック・デザイナーのエピソードも、こりゃ実体験だなと思える。なぜって、私も全く同様の経験をしてきたもの(笑)。
昨今の美大生に、ここまで泥くさいタイプの学生がいるのかどうかは疑問だが、油絵や彫刻といった純粋芸術(ファインアート)系にはまだまだ棲息しているのかもしれない。主人公が個人でやっているネットラジオ番組の題名が『バカがセグウェイでやってくる』というのは秀逸。ブログの題名、これに変えようかしらん。