インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

略語

通訳者のろーんうるふさんのところに、社内ミーティングの通訳に関する話題がのっていた。関係者だけが理解できる指示代名詞や略語が飛びかうミーティングを部外者にウィスパリング通訳することの難しさ。私にも経験があるので深くうなずいてしまった。
関係者同士の会話って、とにかく速い。略語や符丁を使うことで簡略化とスピードアップが図られているところへもってきて、すでにお互い十分すぎるほど「あうんの呼吸」ができているから、なおさら以心伝心で「みなまで言わずともわかる」状態。ゲストと通訳者などそっちのけで、かっ飛ぶように話が進む。
略語や専門用語は、覚えてしまえば逆にこちらも訳出がシンプルになって便利だが、最初はとても苦労する。プロジェクトが始まった頃、技術会議でわからなかったのが「サチる」。“saturate”する、つまり温度や圧力が平衡状態になって変化がなくなることなのだが、彫刻専攻の文系人間には想像もつかない語彙でございます……。
「ミニフロ」。“minimam flow”で最低流量のこと。最初聞いたときは「ミニ風呂」という字面が頭に浮かび混乱した私。
「バタ弁」。“batterfly valve”で、流れを調節する円盤の中心に軸があるのを蝶に見立てているからなのだが、最初は「バター(butter)」をイメージした。谷岡ヤスジか。
北京語にも略語はたくさんあるが、私がおもしろいと思うのは“総経理”や“副総経理”といった役職名を“総”“副総”と略す言いかた。前に名前をつけて例えば“張総”“李副総”などという。周杰倫の“周董”みたい。
この役職名、最初は私も多用していたのだが、すぐにこれは身内だから許される言いかたなのではないかと思いいたった。それからは“張総経理”“李副総経理”などのようにきちんと言うようにしている。外部の人間が相手方の役職名を略すのは「なれなれしい」んじゃないかな、と思って。