インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

単語帳やメモの準備。

この二日間の会談のために私が準備したことといえば、資料を読んだり背景についてレクチャーを受けたりしたほかは、簡単な単語帳をつくったことと想定問答集を作って表敬訪問独特の表現を口慣らししたくらい。あと前日に日本側トップの発言要旨が手に入ったので、それをデジタルレコーダーに自分で吹き込み、再生しながら訳出の模擬練習を申し訳程度にやった。
ううむ、インハウス通訳者として長く同じところにつとめているせいか、以前より必死に準備することが少なくなっているなあ。手を抜いているつもりはもちろんないけれど、やはりずいぶん楽をしていると思う。
ところで、単語帳やいわゆる「アンチョコ」のようなメモを作って本番に備えても、実際にそれを活用しているかといえばそうでもない。自分の経験から言えば、単語帳やメモに目を走らせてばかりいると肝心の聴き取りがおろそかになったりするし、オリジナルの発言を自分が用意しておいた表現にむりやり合わせるような「ゴーマン」な訳出になったりもする。
またこの二日間のような、だだっ広い空間にこれまた大きなソファーが転々としつらえられたような応接室での通訳*1では、技術会議などのようにテーブルが自分の前にあるわけではなく、用意してきた単語帳やメモを広げておく場所がない。お守り代わりに持参している電子辞書*2も、もちろん開けない。膝のうえにメモ用のノートを置けるだけだ。
思うに単語帳やメモは、それを作って練習する過程に意味があるのだろう。「本番」ではその練習の成果が自動的に発揮されるようになっているのが理想なのかもしれない。

*1:中央電視台のニュースでよくやっている、要人が外国の賓客に会う場面。人民大会堂のだだっ広い応接室で、真ん中に双方のトップが並んで座り、その両翼に部下が点々と半円形、あるいは「コ」の字型に座るという光景がよく映し出される。まさにあんな感じ。

*2:通訳をしながらひくことはまずないが、目の前に置いておくだけで何だか安心する。