インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

通訳・翻訳

“騎樓”と“透天厝”と“紙紮”

華人留学生の通訳クラスで、暮らしと行事に関する語彙を日本語と中国語で集めて、それを元に会話練習をする……というタスクを行いました。いろいろな語彙が出てきて、しかもそれが日本と中国・台湾・香港、さらにはそのほかの華人社会で微妙に異なっているこ…

語学は母語の枠外に自分を拡張させる営み

昨日は、英語をはじめとする語学はとにかく泥臭くて辛気臭くて、かつ長い時間を費やすものなので、全国民あげて幼少時からそんなものに狂奔しなくてもいいのではないか……というようなことを書きました。でも私はその一方で、語学には汲めども尽きぬ魅力があ…

スペックを下げてみた結果

もうずいぶん昔のことですが、都内の某通訳学校に通っていた頃、クラスにとても通訳の上手な方がいました。課題の音声を聞いて講師から指名されるたびに、とても正確で整った訳出をされるのです。すごいな、と驚嘆しつつも、しかし私はその方の訳出にどこか…

男性にとって最も大切な資質は?

華人留学生の通訳クラスで、中国の俳優・胡歌氏へのインタビューを教材に使ってみました。www.youtube.comインタビューの一番最後に、“男人身上最可貴的品質是什麼(男性にとって最も大切な資質は)?”という質問がありました。胡歌氏は“誠實、擔當。幽默也…

留学生が苦労するカタカナの発音

「ペーコン」、「ウィーナー」、「シフト」。なんだと思われますか。実はこれ、先日留学生が課題で作ってくれた通訳用のグロッサリー(用語集)にあった表記です。それぞれベーコン、ウィンナー、シーフード。日本語の清音と濁音、それに撥音、促音、拗音、…

教師の心学生知らず

Quizletという単語学習用のオンラインアプリがありまして、私は公私ともにお世話になっています。「私」のほうは、もっぱら趣味(≒ぼけ防止)のフィンランド語の単語を覚えるために使っています。今のところ2000個近くの単語を登録して繰り返し覚えています…

スペックを下げようと思います

華人留学生がなかなか日本語を話したがらないーーというエントリを昨年書きました。qianchong.hatenablog.com華人留学生、つまり中国語圏の留学生さんたちは、日本語を学ぶために日本に留学しているというのに、中国語母語話者同士ではすぐに中国語での会話…

中国語で読む数式

通訳をしているときの「鬼門」とでも呼ぶべきものは多々ありまして、例えば中日通訳では“中國有句古話說……(中国の古い言葉にいわく……)”などといって漢詩や成語、古典の引用などをされる、というのがその代表格です。漢籍の素養などほぼ無きに等しい私など…

キャッチーでダンサブルなナンバー

YouTubeでお笑い芸人さんの芸を見るのが好きです。テレビのお笑い番組も昔は大好きだったんですけど、最近はほとんど見なくなりました。当たり前かもしれませんが、テレビという媒体は基本的に老若男女を受け手に想定しているからか、そのぶん「大味」な感じ…

プロに対する「タダでお願い」について

イタリア語通訳者のMassi氏が、こんなツイートをされていました。日本企業からテレビ会議通訳の依頼があり、イタリアと日本と通訳者でZOOM会議をする予定。コロナの影響で厳しい日々が続いていて、通訳者は家でやってもらうため、経費や準備は不要で30分もか…

母語話者に母語方向の訳出を教えるプレッシャー

通訳や翻訳の授業で、自分の母語方向への訳出を教えるのは大変だーーそんな一種の「お悩み」を、中国語母語話者の先生方から聞きました。学年末に例年開催している教師ミーティング(反省会)でのお話です。私が勤めている学校のうちのひとつは、学生さんが…

いつかたこぶねになる日 漢詩の手帖

私は詩というものが分かりません。いや、唐詩や宋詞にも、俳句や短歌にも、また明治期以降の新体詩にも「いいなあ」と思うものがたくさんあって惹かれ、中には諳んじているものだってあるけれども、自分で紡ぎ出すことができないのです。詩心というものに乏…

翻訳の授業 東京大学最終講義

「翻訳の正しさは原文とは無関係で、百パーセント現実との照合で決まる」と筆者の山本史郎氏は主張します。つまり原文と訳文の間の語彙や文法などよりも、その二つの文が現出させる世界がぴったりと一致していることが何より大切なことなのだと。 翻訳の授業…

大きな声で訳してください

「もっと大きな声で訳してください」。教室で、このフレーズを何度言ったか分かりません。たぶん千回は超えているんじゃないかしら。いえ、これは誇張でも何でもなくて。通訳訓練で、生徒さんの声があまりにも小さくて、すぐそばにいるのに聞こえにくいこと…

語学で身を立てる

語学関係者ならページをめくるたびにいちいち頷き、付箋を貼りまくり、「そうそう! この本に書かれていることは、この業界ではごくごく当たり前のことばかりなのに、一般に広く知られていないのはなぜだろう?」としみじみ思うはずです。通訳者や翻訳者がや…

留学生から出された質問に対して

先日、通訳訓練の一環で外国人留学生のみなさんに私がいままでしてきた仕事を話すという機会がありました。留学生のみなさんは日本で、あるいは母国や第三国での就職を目指している方が多いので、参考になるかもしれないと周囲には言われたのですが、私自身…

話すことと訳すこと

華人留学生の通訳クラスで、中国語→日本語の訳出があまりにもたどたどしい方が多いので、しばらく「1分間スピーチ」を課題にしていました。学生は日本語をもう何年も学び続けている方ばかりですけれど、やはりアウトプットの機会、それも日常のおしゃべりレ…

立場を変えてみてクライアントの気持ちが少しだけ分かった

通訳者として仕事に望むとき、よくクライアント(お客様)、あるいはクライアントのスピーカー(話し手)の姿勢にいろいろ難儀していました。通訳という作業は事前の予習が不可欠であるにも関わらず、その予習をなかなかさせてもらえないというのが難儀して…

「やっつけ仕事」の字幕を前にして

「WeTV」の動画に日本語字幕がつくようになったーー。先日、Twitterでそんな情報に接しました。すごい…ついに腾讯视频の国際版「WeTV」に日本語字幕が付く日が来たよ...最近放送スタートした中国ドラマをこんなに早く字幕付きで観れるなんて感動しかない……ま…

出版翻訳者なんてなるんじゃなかった日記

宮崎伸治氏の『出版翻訳者なんてなるんじゃなかった日記』を読みました。新聞広告で見つけて、これはきっと私たちに向けて書かれた本に違いないと思ってすぐに購入し、面白くて一気に読了。面白いけれど、こんなに怖くて気分の悪くなる本も久しぶりでした。 …

語学におけるネットの中毒性

外語の作文をするときに、インターネットを利用することがあります。自分の書いた文やフレーズが実際に使われているか、ダブルクォーテーションマーク(“”)つきで検索(完全一致検索)して確かめるのです。ネットを巨大な「コーパス」として利用するという…

フランス語っぽい日々

じゃんぽ〜る西氏とカリン西村氏の『フランス語っぽい日々』を読みました。月刊誌『ふらんす』に連載されていたマンガとコラムを一冊にまとめたものです。私はじゃんぽ〜る西氏のマンガのファンで、氏の作品はほとんど読んできました。『パリが呼んでいる』…

留学生の通訳訓練(日本語方向編)

留学生の通訳クラスで、外部から講師をお招きして講演会を開き、その内容を訳すという通訳実習を行いました。この学校の通訳クラスには英語クラス(日英・英日)と中国語クラス(日中・中日)があります。学生さんの中には母国ですでに日本語を学んでいた人…

簡体字と繁体字の併記について

昨日Twitterで、こんな意見に遭遇しました。もう、漢字が読めるのは日本人と台湾人だけですからね。我々は、ホンモノの漢字を知ったうえで、中共の簡体文字を漢字の省略形と認識してますが、中国人は簡体文字を漢字と思い込まされており、学者や一部の高学歴…

再び言語リテラシー教育(のようなもの)の必要性について

通訳の仕事をしていると、時々とても奇妙な「言語観」を披露してくださるクライアント(お客様)に遭遇することがあります。そうした方々は、通訳業務の前に決まってこんなことをおっしゃいます。「言った通りに訳してくれればいいから」。つまり通訳(や翻…

ヒトの言葉 機械の言葉

川添愛氏の『ヒトの言葉 機械の言葉』を読みました。機械が人間の言葉を理解することについての基礎的な知識を紹介する内容で、母語の習得や外語学習についても多くの示唆が得られる一冊です。 ヒトの言葉 機械の言葉 「人工知能と話す」以前の言語学 (角川…

留学生の「インタープリターズ・ハイ」

先日、勤めている学校のひとつで留学生クラスの通訳実習を行いました。外部から様々なご専門の講師をお招きして講演を行っていただき、それを通訳するというものです。単に講演当日に通訳するだけではなく、「自分が実際にこの仕事をうけたらどんな準備をす…

通訳報酬の「時給化」について

通訳者として登録しているエージェントさんから、アンケートへの回答を求められました。エージェントとは、通訳者の派遣や通訳者を使った業務のコーディネートなどを行っている会社です。アンケートの内容は、コロナ禍で通訳者の業務環境が大きく変わりつつ…

日本になんて来たくなかった?

何年か前、とある企業の幹部職員候補者向けセミナーに通訳者として伺ったことがありました。この企業は本社が日本にあり、中国を含む世界各地で大規模に事業を展開しています。そのセミナーは、中国各地の中堅職員を日本に呼んで、本社の企業理念や経営方針…

外語学習で恥やプライドを捨てる勇気について

明治から昭和にかけジャーナリストとして、また随筆家や俳人などとしても活躍した杉村楚人冠(すぎむら・そじんかん)という人がいて、『外國語と芝居氣』という文章を書いています*1。いくつか文章を抜き出してみます。 年を取ると外國語を使ふのが馬鹿にお…