インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

加熱式たばこの「ステルス性」について

一昨日の東京新聞朝刊に、こんな広告が載っていました。新聞紙面1ページの1/3を占める、加熱式たばこ「glo(グロー)」の広告です。

f:id:QianChong:20191107083019j:plain

こうした加熱式たばこ、最近は往来でもよく見かけるようになりました。私はたばこの煙や匂いが大嫌いなために却って感覚が研ぎ澄まされてしまい、ほんの僅かな煙や匂いでも察知できるようになっただけでなく、前を歩く人の姿勢や動作から「あ、この人はこれからたばこを吸うだろうな」という未来を予知できる特殊能力まで獲得するに至りました(かなりの確率で当たります)。さらには、雑踏の中でもライターの「カチッ」とか「シュボッ」というかすかな音まで聴き取って回避行動を取るというスキルまで身につけてしまいました。

加熱式たばこの登場は、その特殊能力に新たな挑戦者となって現れました。ライターの音も聞こえないし、見た目もなにかのガジェットみたいでたばこっぽくありません。そのガジェットを口に加えているのを見てようやく「ああ、たばこなんだ」と分かるくらい。しかも紫煙がたなびかないから、これもよく分かりにくい。なるほど、加熱式たばこが「ステルス性」の高い製品だと言われるのもうなずけます。その有害性が指摘されているにも関わらず。

news.yahoo.co.jp

ところで上掲の新聞広告、どこか奇妙な感じがしませんか? 広告コピーは「スタイルとテクノロジーの新たな2つの楽しみ」だけで「たばこ」の文字がありません。わずかに左下の「ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン」という社名でたばこ広告だと分かるくらいです。でも加熱式たばこのユーザーにとってはこれで十分なんでしょうね。「glo と言えばアレでしょ」という暗黙の了解があるわけです。

しかしもっと奇妙なのは、たばこの広告につきものの警告文がないことです。「20歳未満の者の喫煙は法律で禁止されています」とか「喫煙は心筋梗塞脳卒中の危険性を高めます」とかの文言ですね。こんなのが許されるのだろうか、加熱式たばこの場合は警告文がいらないのだろうか……と訝しんでいたところ、今朝の新聞にはこんな広告が載っていました。

f:id:QianChong:20191107083052j:plain

同じ「glo」の広告ですが、こちらには警告文が入っています。マーケティングを目的とした広告に、こうしたネガティブな文言を付さなければならないという自己矛盾。そんな広告のありようにはたばこの持つグロテスクな一面が現れていて、私はいつも気持ち悪さを感じるのですが、ここで疑問なのは、なぜ一昨日の広告には警告文がなくてもよく、今朝の広告には警告文が付されているのかという点です。

それでちょっとネットで検索してみたら、日本におけるタバコ広告は、昭和59年に施行された「たばこ事業法」によって規制されていることがわかりました。新聞広告に警告文が付されているのも、この法律が元になっているんですね。

(注意表示)
第三十九条 会社又は特定販売業者は、製造たばこで財務省令で定めるものを販売の用に供するために製造し、又は輸入した場合には、当該製造たばこを販売する時までに、当該製造たばこに、消費者に対し製造たばこの消費と健康との関係に関して注意を促すための財務省令で定める文言を、財務省令で定めるところにより、表示しなければならない。ただし、輸入した製造たばこを博覧会において展示し即売する場合その他財務省令で定める場合は、この限りでない。
2 卸売販売業者又は小売販売業者は、前項本文の規定により製造たばこに表示されている文言を消去し、又は変更して、製造たばこを販売してはならない。

そうすると、一昨日の新聞広告に警告文がなかったのがますます不可解に思えるのですが、もう少し検索してみたところ、実際にどういう文言の警告文をどういった場合に付すのかについては、この法律に基づいた財務省の指針を受け、業界団体である「一般社団法人日本たばこ協会」が策定した「広告・販売促進活動に関する自主規準」に則っているということがわかりました。「glo」を販売している「ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン」もこの協会の会員ですし、現協会長は「ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン」の社長さんです。

www.tioj.or.jp

ここに「注意文言等の広告表示に関するマニュアル」というのがありまして、そこには、①「紙巻たばこ、葉巻たばこ、パイプたばこ及び刻みたばこ」、②「かみたばこ及びかぎたばこ」、③「加熱式たばこの製造たばこ部分」、④「製造たばこ代用品」について、それぞれ付すべき文言が提示されています。

「glo」は加熱式たばこですから、一昨日の新聞広告に③で示されたような警告文が載っていないのは自主基準にもとるんじゃないの? と思ったのですが、ここで気づきました。③は「加熱式たばこの製造たばこ部分」なのです。つまり一昨日の広告は「glo」のガジェット部分だけの宣伝だから③に該当しないので警告文を載せず、今朝の広告は「上質なたばこ葉+フレーバー・リキッド」などと「製造たばこ部分」が含まれているから③に該当して警告文を載せたということなのですね。

謎は解けましたけど、こんな手法でたばこのさらなる普及を図ってくるとは姑息です。旧来のたばこは「たばこ部分」もなにもなく、全体がたばこですから丸ごと規制の対象になったわけですが、加熱式たばこには「ガジェット」と「たばこ部分」に分けることで、こうした「抜け穴」ができてしまったわけです。一昨日の広告はまさにそんな加熱式タバコの「ステルス性」がいかんなく発揮されたケースと言えるでしょう。

加熱式たばこは、そのガジェットを用いる「スタイリッシュさ」から、新たなたばこの中毒者層、とりわけ若い世代の中毒者層を増やすのではないかと私は懸念しています。日本たばこ協会には、こうした新たな事態に対処すべく、自主基準の改定を行うよう強く望みたいと思います。