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受刑者に本を差し入れる「ほんにかえるプロジェクト」

昨日の東京新聞朝刊、特報欄に掲載されていた「ほんにかえるプロジェクト」の記事には様々なことを考えさせられました。中国生まれで、十四歳の時に日本へ移住した汪楠氏が始めた、全国の受刑者に無償で本を差し入れるという活動です。

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汪楠氏自身もかつて犯罪に手を染めて長く服役したことがあり、その時の経験から生み出されたこのプロジェクトについて、「更生のために必要なのは人との触れ合い。次は本。どんな自分でありたいのか、どんな人生を送りたいのかを考えるきっかけになるから」と語っています。なるほど、本を臆することで誰かが自分のことを思ってくれていると感じることができるし、もとより読書は自分の想像力を耕すことができる営みですからね。

汪氏自身もティーンエージャーの頃から不良集団に関わり、その後も反社会的組織のもとで暴力に明け暮れたそうです。それは多感な時期にいきなり異国へ連れてこられたうえに、自分を支援してくれる存在がいなかったばかりか、いじめに遭ったことなどが元になっているとのこと。これは、外国人労働者の受け入れに伴って様々なルーツを持つ人々とその子供たちが増えているこの国の現在において、対応が急務でありながら後回しにされている問題とつながっているように思えます。

多文化共生が、きちんと政策や行政の施策として取り組まれなければ、それは社会全体のリスクとして跳ね返ってくる。異文化の中で疎外感を深めた汪氏は「中国帰国者や二世を差別する日本社会を恨むように、窃盗や暴力事件を繰り返した」そうです。もちろん様々なルーツを持つ人々の存在がそのまますべて社会の負の側面に結びつくわけではありません。そこは注意深く差別や予断や偏見を排していく必要があります。

しかし、すでに移民を数多く受け入れ、多文化共生を図ってきた欧米などの国々でも、それらの政策や施策が必ずしも理想的な形で機能していない現実を見るに、その後ろを追いかける日本は同じ轍を踏んではいけないし、だからこそより積極的にこの多文化共生という課題に取り組むべきです。特に多文化のルーツを持つ子供たちへの教育支援は、その大事な柱のひとつではないでしょうか。汪氏の半生と現在の取り組みからは、そうした教訓を汲み取れるのではないかと思ったのです。

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ご自身が異文化の中で苦しんだ経験を持つ汪氏は、このプロジェクトを「受刑者のためだけじゃない、俺自身の更生のため、俺の人生を生きるためにやっている」とおっしゃっています。ネットで検索してみたら、プロジェクトのホームページはエラーになって見られませんでしたが、「応援サイト」というページにたどり着きました。ページの一番下に、書籍やカンパの送付先が記されています。私もぜひ、この活動を支援したいと思います。

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