インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

「開いててよかった」から離れて

この夏、フィンランドでなかば「暮らすように」旅をしていて印象深かったのは、かの地のお店の営業時間が短いことでした。いえ、短いというより普通といったほうがいいのかもしれません。要するに「9時−5時」であったり週末や休日には閉まっているというだけであったりするのですから。でもその普通のことが、日本の、特に東京に暮らす私にとって印象深く思える――ことほどさように、私たちの働き方や暮らし方はかなり特殊なのかもしれないと思ったのです。

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フィンランドにもあちこちにコンビニ(キオスキ)やスーパーがあって、その品揃えや利便性は日本とさほど変わりません。ただコンビニであっても終夜営業というところはほとんどなく(皆無ではないもよう)、早朝や深夜などは当然のように開いていませんでした。スーパーも平日はおおむね朝の9時か10時ごろから開き、深夜まで営業しているところは一部のみでした。休日になるとこの営業時間がもっと短くなります。

お店では、たいがい入り口などに営業時間の表示がしてあって、「ma−pe 10:00−17:00 / la 10:00−15:00」などと書かれています。「ma」は「maanantai(月曜日)」、「pe」は「perjantai(金曜日)」、「la」は「lauantai(土曜日)」で、だいたい週末は営業時間が短くなるか、お休みのところが多いようでした。飲食店は逆に週末に長く営業して平日は午後や夜だけとか、色々なパターンを見かけましたが、日本の私たちからすると総じていずこも営業時間が短いなあという印象。でもこれが人間の、本来の働き方のような気もします。

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もうずいぶん前のことですけど、コンビニエンスストア最大手のセブンイレブンで、加盟店のオーナーが人手不足や過労などを理由に営業時間の短縮を申し出るも断られ、それでも短縮を強行して本部側と争いになっているというニュースがありました。結局本部側も現状を一部認めて、営業時間の見直しや無人店舗の導入など改善に乗り出したようですが、私自身は(コンビニが登場する以前の社会を知っているからということもあるでしょうけど)24時間営業なんてしなくていいんじゃないかと思っています。

セブンイレブンの社長・永松文彦氏は雑誌のインタビューに答えて、深夜のコンビニ利用客は全体の1~2割ほどだが、病院や警察、深夜営業の従業員など深夜にしか買い物ができない人にとって24時間営業は大切だと述べています。でも一方で、コンビニ利用客の年齢層が高齢者にシフトしつつあり、その点でも深夜営業や24時間営業の必要性は低下しているという調査もあります。これは意外でした。コンビニといえば若い方々というイメージでしたけど、変わりつつあるんですね。

www.nippon.com

私はフィンランドで、ついつい日本の、それも東京の生活感覚でいたために、コンビニやスーパーなどお店が開いていなくて、あるいは公共交通機関が動いていないか極端に少なくて「困ったなあ」と思った場面がありました。土日はますますその傾向が強まって、予定が狂ってしまったことも。でも冷静に考えれば、いつでもどこでも誰かが自分のためにサービスを提供してくれるという状態のほうが異様なんですよね。そしてあらかじめ「そういうものだ」との意識さえあれば、特段不便だとも思わない(すぐに慣れちゃう)自分にも気づきました。

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また先日は、稽古用の浴衣を買おうと思って、ネットの呉服屋さんで注文したのですが、それがちょうど金曜日の夕方でした。その後そのネットショップから一向に連絡メールが来ないので、私は「なんだよ、このお店は……」と少々不満に思ってしまったのですが、サイトで営業時間を確認してみると、土日や祝祭日はお休みと書いてありました。つまり注文したのが金曜の夜だったので、返事は週明けになるわけです(実際、月曜日の午前中にメールが来ました)。

そりゃそうですよね。Amazonなど大手ネットショップはすぐにレスポンスがありますが、個人営業や中小企業などのサイトは、いくらネットショップだからと言ってもスタッフだってお休みしなきゃなりません。Amazonみたいな対応に慣れちゃってそれがデフォルトになっちゃってますけど、それはもともとかなり特殊な状態なんですよね。くだんの呉服屋さんのようなまっとうな、「人間味」のある営業スタイルを想像できなかったくらい、私も昔懐かしい(というより忌むべき?)「24時間戦えますか」的マインドに染まっていたわけです。

かつてフリーランスで翻訳の仕事をしていた頃は、金曜日の夕方に原稿を送ってきて「月曜日の朝イチで納品をお願いします」というクライアントに、内心「翻訳者には週末や休日がないとでも?」などと憤慨していたというのに。いやはや、まことにお恥ずかしい限りです。