インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

語学の「通学」に向かない方もいる?

留学生の通訳クラスでは、カリキュラムに演劇を取り入れています。これは日本語を「肉体化」してより活き活きと話せるようにするため、また人前で誰かに成り代わって話すという通訳者のお仕事の特性に鑑みて取り入れているものです。ネット上にある寸劇やコントなどの台本をベースにしながら、作者の方々の了解を得た上で換骨奪胎し、留学生のキャラクターなども考えた上で大幅に改変して台本に仕立てています。今年も「通訳機械」や「AI」をテーマにした台本を私が書きました。

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うちの学校ではこの演劇訓練に限らず、ほかにも大勢の聴衆を前にしたプレゼンテーションやグループワーク、ディベートみたいなものを数多くカリキュラムに取り入れており、入学案内書や入学説明会でもそれらを紹介しています。なおかつ入試の面接でも改めて「これこれこういう授業がありますけど、大丈夫ですか?」とたずねて、心の準備をしてもらうようにしています。

それでも、毎年数名の留学生から「人前で演技するなんて恥ずかしいです」とか「グループワークや他の人との共同作業が苦手なんです」というお悩みが寄せられます。でも、なにせ専門課程(卒業すると短大と同じ「専門士」の称号が与えられます)のカリキュラムとして組まれている語学訓練、通訳訓練、それにビジネスの現場で使えるようなプレゼンやグループワークやディベートですから、それらに参加しないとほとんど単位が取れないことになっちゃいます。

それでこちらもいろいろと励ましながら、少しでも共同作業に参加できるよう他の留学生の協力を仰いだり、演劇訓練だったら音響や照明などのスタッフに回ってもらったり……と配慮をするのですが、やはりどうしてもこうした活動と肌が合わないという方はいるんですよね。入学前から説明していて本人も了解しているというのが前提ですし、そもそも語学の訓練(特に聴いたり話したりという部分)にはロールプレイなど演劇的な要素がつきものなのでこちらも困っちゃうんですけど、だからといってもちろん「アンタは語学や通訳者に向いてません」と切り捨てちゃうわけにもいきません。

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https://www.irasutoya.com/2016/09/kj.html

う〜ん、まあ私もどちらかというと人見知りをする方なので、その気持ちは分からなくもありません。今通っているフィンランド語のクラスでも、先生は生徒を二人ひと組にしてロールプレイや、教科書のテキストの読解、単語のクイックレスポンス、さらには一方の生徒がもう一方の生徒に文法の説明をする……といったアクティブな活動をたくさん盛り込まれます。要するにずっと「講義」を聞いてばかりの座学にはしないぞ、という先生のスタンスで、私はとてもいいなと思っているのですが、こういうアクティブな活動は人見知りの人間にとってはけっこう疲れるんですよね。「よいしょっ!」「やるぞっ!」というような自分への叱咤がないとなかなか取り組めないんです。

まあ私は、語学は人前で恥をかいてナンボじゃないかと思っていますし、人見知りを克服したいという気持ちもあってわざわざ語学教室に通うわけです。それに、聴いたり話したりという部分の語学は、やはり演劇的な、お芝居的な要素がある程度必要だとも思います。だから、ロールプレイのお相手が極端に「芝居っ気」のない方だったりすると、こっちも何だか気恥ずかしくてやりにくい。

中国語の講師をしていたときも、例えば「お互いに自己紹介してみましょう」とか「家族のことを話してみましょう」などというタスクを課すと時々「プライベートに関わることはちょっと……」とか「ひとり暮らしなので何も話すことがありません」という方がいて、困ってしまったことがありました。「中国語では、みなさんのお名前の漢字が中国語読みされます」と紹介して「自分の名前を言ってみましょう」となった際、「私はTanaka(田中)であってTiánzhōng(ティエンジョン:田中の中国語読み)じゃない。英語だって Mr. Tanakaと言うじゃないか」みたいにおっしゃる方がいて閉口したこともあります。

まあ、世の中いろいろな方がいますね。でも、いろいろな人がいるってことは、向き不向きもあるってことだと思います。これを言っちゃ語学教師失格かもしれませんけど、少なくとも学校に通う形での語学には向かない方もいるんだよな……ってのがホンネなんです。