インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

「です・ます」と「だ・である」の使い分け

華人留学生の通訳クラスを担当していると、いろいろと面白いことに気づきます。私たちの学校の留学生はおおむね日本語学校で一年〜二年程度学んで入学してきた方々なので、正直に申し上げて日本語はまだまだ発展途上。というわけで、通訳の訓練というよりは、通訳の訓練を利用して日本語力のさらなる向上を図っているところ、という感じです。

みなさんが日本語のアウトプット、とりわけ通訳訓練のような口頭でのアウトプットの場合にいちばん苦労されているのが、日本語の助詞の使い方、つまり正しく「てにをは」を使い分けることです。中国語はいわゆる「孤立語」であるためか、中国語母語話者でかなり日本語が上手な方でも助詞の使い方には苦労されているよう。ましてや発展途上の留学生のみなさんならなおさらです。

もうひとつ、意外にみなさんが苦労されているのは、「です・ます」(敬体)と「だ・である」(常体)の使い分けです。通訳の訳出は基本的に話し言葉なので、原則として一人称かつ敬体で行われるのですが、なかなか「です・ます」で発言を終わらせることができず、まるで翻訳文を読み上げているかのように「だ・である」で終わってしまう方が結構多いのです。

でも面白いのは、ふだんおしゃべりしているときは普通に話し言葉で話しているんです。「だ・である」で話す人はいません。なのに通訳訓練となると緊張しているのか、翻訳や中文日訳の延長線上で考えてしまうのか、「だ・である」になっちゃう。もちろん、華人留学生は人数も多いために授業以外ではいきおい中国語でしゃべり倒していて、日本語の口頭表現の訓練がそもそも全然足りていないという要因もあるのかもしれません。この点は欧米など非漢字圏の留学生との際だった違いです(中国語圏に留学している日本人留学生にも同様の傾向があると聞いたことがあります)。

というわけで、授業ではしつこく「です・ます」で訳してくださいと何度も何度も指摘するのですが、なかなか改善していかない方が、それも結構な割合でいます。こっちも内心ではつい「キレそうに」なるのですが、そこはそれ、辛抱強くいろいろな言い換え例も提示しながら注意を促しています。

しかしこれも、こうした明確な文体の違いが存在しない中国語が母語の方々にとっては仕方がないかなとも思います。中国語にも文語・口語の違いや、堅い言い方から砕けた言い方まで様々なバリエーションがありますが、文末の、ほんの少しの変化だけで敬体と常体が変わってしまう日本語に対応するのは、なかなか難しいことなのだろうと想像します。ほんの一文字、二文字程度で、文体が大きく変わっちゃうんですもんね。

東京スカイツリーは外国人にも人気の観光スポットです。2012年5月22日に開業しました。(敬体)
東京スカイツリーは外国人にも人気の観光スポットだ。2012年5月22日に開業した。(常体)

考えてみれば自分も、フィンランド語における現在形や過去形、あるいは細かい格変化やkptの変化(子音階程交替)など、しょっちゅう間違っています。ネイティブにはなんの造作もないことでも、非ネイティブにはとことん難しいんですよね。

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https://www.irasutoya.com/2017/04/blog-post_88.html

留学生のみなさんは、秋の文化祭に向けて「日本語劇」の練習にも入ったのですが、こういうお芝居や、あるいはドラマなどの字幕翻訳で使われる「役割語」的な男言葉・女言葉についても、結構苦労しています。これも中国語には、ハッキリとした区別がないからですね。「役割語」については、聞いたり読んだりして理解するのはかなりできるようで、試しにいろいろと出題してみると「中年の女性!」とか「お年寄りの男性!」などと答えてくれます。でも自分から表現する場合にはかなり心許ない。

外語を自由に使いこなすというのは、本当にたゆまぬ努力が必要なんですね。私も「キレそうに」なることなく、辛抱強くつきあって行きたいと思います。留学生の通訳訓練も、自分の語学訓練も。