インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

英語と数式満載の「理系」資料が出てきたら

通訳クラスで「素数」についての教材を扱いました。通訳者を目指す方はどちらかというと「文系」の方が多く(私もそうです)、数学だの物理だの科学技術だのといった「理系」の内容に疎い、あるいは苦手という方が多いです。でも一方で、実際のお仕事はむしろ理系の内容の方が多い……ということで、そうした「理系アレルギー」を克服するために取り上げています。

もっとも現代の最先端の知見は単純に文系・理系と立て分けできるものでもありませんし、文系の方が感覚的かつ情緒的に話し、理系の方が論理的かつ理性的に話すとも限らないのですが、私個人の経験では、理系の内容は単語の同定が理系に比べて厳しく、曖昧な言い回しや「ごまかし」がきかない、数字や単位の正確さがより一層求められるなどという点で、けっこうな緊張を強いられます。そうした状況に慣れるための訓練になればいいなと思っています。

あともうひとつ、理系の場合に出てくる資料が全部英語ということがままあります。私の英語力はほぼ中学校一年生か二年生程度なので、かつてそういう資料を受け取った時には、底なしの絶望感に襲われました。どうして日本語・中国語間の通訳のお仕事なのに英語の資料が出てくるんですか〜! と思いますけど、理系の方にとっては英語の方が正確に伝わるんでしょうね。だけど自分が話す時はやや自信がない、だからお互い母語で話す、なので通訳者を雇う……と。

そんなこんなを生徒さんにも体験してもらおうと「素数」に関する教材を作りました。台湾の数学者さんが素数の基本的な知識について語っている内容で、そんなに難しいことは出てきません。それでもそもそも「素数」って何? というあたりから予習する必要があります。また画面に出てくる英語の解説や、板書の内容を私がパワポ資料として作成し、これをクライアントから提供された資料のつもりで予習してくださいと渡しました。その一部がこちらです。

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実際のお仕事ではこんなに単純な資料はないですけど、まあ入門編ということで。でも数学が苦手な方(私)にとっては泣きそうになる内容かもしれません。とはいえ泣いていても仕方がないので、辞書を片手にぽつぽつと英語の資料を読み進めます。あと、ネット翻訳も活用して、不完全でもいいのでだいたい何を言っているのかを確認します。普段はネット翻訳なんてとさげすんでいるくせに、こういう時はすがっちゃう。勝手なものですね。

無料で利用できるネット翻訳はいくつもあります。そのうち「Google翻訳」「エキサイト翻訳」「Weblio翻訳」「みらい翻訳」にこの英文を訳してもらったところ、Google翻訳の日本語が一番分かりやすいという結果になりました。しかも、実は数年前にも同じようにGoogle翻訳で訳した時より、訳文の改善が進んでいるように思えます。

Peano axioms
If K is a set such that:O is in K, and for every natural number n, if n is in K, then S(n) is in K, then K contains every natural number.
【数年前】
ペアノの公理
Kはセットである場合ように:OがKであり、nはKである場合、すべての自然数をn、その後S(n)はKである場合、Kはすべての自然数が含まれています。
【今回】
●ペアノ公理
Kが次のように設定されている場合:OがKに含まれ、すべての自然数nに対して、nがKに含まれる場合、S(n)はKに含まれ、Kはすべての自然数を含みます。

Prime number
A prime number (or a prime) is a natural number greater than 1 which has exactly two distinct natural number divisors: 1 and itself.
【数年前】
素数
1とそれ自身:素数(または首相)は、正確に二つの異なる自然数の約数を持つ1より大きい自然数である。
【今回】
素数
素数(または素数)は、1より大きい自然数で、1とそれ自体の2つの異なる自然数の除数を持ちます。

Fundamental theorem of arithmetic
Every natural number greater than 1 can be written as a unique product of prime numbers.
【数年前】
●算術の基本定理
1よりすべての自然数よりは、素数のユニークな製品のように記述することができます。
【今回】
●算術の基本定理
1より大きいすべての自然数は、素数の固有の積として書くことができます。

ちなみに、英語と中国語は言語の構造的に近いものがあるので、英語と日本語のGoogle翻訳よりもより分かりやすいことが多いです。

●皮亞諾公理
如果K是一個集合,使得:O在K中,並且對於每個自然數n,如果n在K中,則S(n)在K中,則K包含每個自然數。
●素數
素數(或素數)是大於1的自然數,它具有兩個不同的自然數除數:1和它本身。
●算術的基本定理
每個大於1的自然數可以寫為素數的唯一乘積。

もちろん、こうやって訳した上で「ペアノの公理」や「算術の基本定理」などについてネットで解説を読み、より理解を深めて行くことは言うまでもありません。

もうひとつ、資料にはこんな「数式」が出てきます。いじわるですね(私が作ったんですけど)。
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こういう数式も、文系人間にとっては「鬼門」です。そもそもこの数式を日本語と中国語でどう読めばいいかさえ分かりません……。実はこういう「数式などの読み方」って、語学の学習者にとって意外なウィークポイントなんですよね。ご専門の方を除いて、普段の生活ではあまり出てこないので。分数や小数やパーセントあたりまでは教科書にも出てきますけど、例えば「累乗」とか「ルート」とか「微積分」とか、あと幾何の「台形」とか「三角錐」とか「円周率」とか……それらを中国語ではどう言うのか。その辺りも、この際一度確認して自分のものにしておきましょう……というのが、この教材のもうひとつの狙いになっています。

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https://www.irasutoya.com/search?q=%E6%95%B0%E5%AD%A6

これについては最近、こんなサイトを見つけました。文部科学省の「帰国・外国人児童生徒教育等に関する施策」というもので、この中に「数学用語対訳一覧」というPDFが公開されているのです。外国にルーツを持つ生徒さんへの教育を支援するためのものですが、これは素晴らしい。以下のリンクで入手できます。最初にポルトガル語が出てきますが、下の方に行くと日本語・中国語の対訳に加えて、読み方までまとめられています。若干の間違いと思われる記述もありますが、私たちにとっても役に立つ資料だと思います。

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2015/10/06/1235807_022.pdf