インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

ジャガーの眼

劇団唐組の『ジャガーの眼』を観てきました。東京は新宿の花園神社境内、特設のテント小屋。この光景はかなり懐かしいです。

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劇作家で俳優の唐十郎氏が率いる状況劇場・紅テント。劇団唐組はその流れをくんでいて、座長は今でも唐十郎氏ですが出演はしていません。紅テントをはじめとするテント芝居、三十年ほど前の学生時代には足繁く通っていました。

私はいわゆるアングラ演劇とか暗黒舞踏とか、その辺りのムーブメントには少し乗り遅れていた世代で、むしろ下北沢のザ・スズナリに代表される小劇場演劇から、第三舞台夢の遊眠社(おお、いずれもインプットメソッドが一発で変換してくれませんね)が大劇場に進出してメジャー化していく辺りがちょうど大学生の頃。すでに比較的スタイリッシュな演劇がもてはやされていた頃でしたが、私はどちらかというとテント芝居のようなちょっと猥雑で手作り感満載の雰囲気に惹かれていました。

紅テントの芝居は、難解かつ詩的な大量のセリフを超高速でまくし立て、劇中歌がたびたび入るスタイルで、滑舌とか間とか、あるいは会話のリアリティとか、そんなものは一切すっ飛ばしてとにかく大声と汗と熱で押し切る!……のが魅力的でした(って、まとめちゃうと身も蓋もありませんが)。「68/71黒色テント」みたいなどちらかといえば上品(?)な作風の劇団もありましたが、他にも「風の旅団」とか「十月劇場」とか、とにかくテント芝居に惹かれて、今思い出すだけでもいろいろ観に行きました。

ジャガーの眼』は1989年に目黒不動尊境内の紅テントで観ました。ネットで検索してみるとこれは再演で、すでに「唐組」になってからのことだったようです。唐十郎氏も主役の「サンダル探偵社・田口」として出演していて、とにかく面白くて強烈な印象を残しました。今回「名作選」としてリバイバル公演されたわけですが、冒頭の劇中歌「♪この路地に来て思い出す/あなたの好きなひとつの言葉〜」を今でも覚えていて歌えたのに自分でもびっくりしました。それくらい印象深かったわけです。

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それでもまあ、2019年の今になって観る唐十郎のお芝居は、当然のことながら当時のものとはかなり違っていました。話の筋を知っているというのもありますが、俳優さんたちの熱演にもかかわらず、やはり全体的にパワーダウンしているのは否めません。いえ、これは俳優さんたちがパワーダウンしているのではなく、今の時代が、こうしたアングラ演劇を成立させるような熱気というか空気というか雰囲気というか、そういうものをすでに失っているからかもしれません。

そして何より、観る私がパワーダウンしているからだと強く感じました。二時間強、途中に十分ずつの休憩を二回挟んだ三幕構成のお芝居を、地面に板を敷きその上にゴザを敷いただけの桟敷で、満員の観客の間に挟まって観るのがもう疲れて疲れて。三十年前は疲れたとか膝やお尻の痛さなど全く感じることなく、演劇世界へ引き込まれて時間を忘れましたが、今回は全く勝手が違いました。

そして失礼ながら、周囲を見回すと、観客のほとんどは私と同年代か、更に上の世代の方々。つまりは私同様、かつてテント芝居にはまって、今回それを懐かしく思い出しつつ花園神社へ再集結したような方々ばかりで、幕間にみなさんその場に立って足腰を伸ばしたり,膝をもんだり……いかにもお辛そう。私も腰をさすりながら思わず笑いました。

芝居の終幕は、お約束で舞台後方のセットが全部外され、花園神社の境内に出演者たちが消えていく……という演出。みなさん足腰の痛さを忘れて大喝采でした。さらにカーテンコールで役者を一人一人紹介するのもお約束。さらにさらに、最後に「座長・唐十郎!」ということで、ご本人が花道から登場。

足元もおぼつかない感じでしたけど、俳優さんの一人に両手を引かれてゆっくり舞台に。うわあ、唐十郎さんもお年を召されたなあ(当然ですが)。舞台でも何をおっしゃってるのかよく分からなかったけど、これもまあ唐十郎さんらしい。最後はやはり境内の奥に消えて行かれました。

唐十郎氏にはいまだファンも多いようで、この「唐組」の他に、受付で配られたチラシの中には「唐ゼミ」という劇団が今秋旗揚げというのもありました。『ジョン・シルバー』三部作をテント公演するそうです。個人的には台湾と関連のある『ビンローの封印』をもう一度観たいなあ(と思って検索してみたら、なんと二年前に再演してた!)。でもテント芝居を観る体力はもう……。