インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

そばですよ

昔から「立ち食いそば」ファンです。駅のホームや駅周辺にあるお店で、特に寒い冬の朝など、出勤途中に食べるのが大好きでした。「でした」というのは、最近はあまり食べなくなってしまったからで、それは仕事のサイクルと場所、それに住んでいる場所の関係で、その行動範囲内にあまり「よろしき」立ち食いそば屋さんがないからです。

大手のチェーン店ならけっこうあるんですが、やはりごめんなさい、何度も通いたくなるような味ではなくて……。それに若い頃のようにとにかく炭水化物でど〜んとお腹を満たす、というような食事ができなくなったというのも大きいと思います。あああ、なんだか寂しいなあと思っていたところに、この本に出会いました。エッセイストの平松洋子氏が『本の雑誌』に連載中の、東京の立ち食いそば(立ちそば)屋さんレポートをまとめた『そばですよ』です。

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そばですよ (立ちそばの世界)

いやあ、すごい。こう言ってはたいへん失礼ですが、私よりもっと年配の平松氏にして、この旺盛な食欲と食に対する好奇心、それに行動力。この本には典型的な街の老舗的「立ちそば」屋さんから、ニューウェーブとおぼしき変わり種まで、様々なお店に取材し食べ歩いた記録が載せられています。「人に歴史あり」的なインタビューもあれば、著名人とのそば談義コラボもあります。単にそばの味についてあれこれ形容し評価する「グルメ本」ではなく(その側面ももちろんありますが)、それぞれのお店から見えてくる各店各様のドラマがとても味わい深いのです。

この本に出てくるいくつかのお店は行ったことがありましたが、そのほかにもしょっちゅう近くを通っているのに知らなかった「名店」があちこちに。立ちそばのお店は、それこそグルメよろしくわざわざ電車やバスを乗り継いで食べに行くというより、やはり生活の範囲内にあって、日常の一部として利用するのが「らしい」ありかたですよね。ご近所にお住まいの方が羨ましい。これらのお店をグーグルマップの「行きたい場所」のリストに保存しておいて、なにかの用事で近くを訪れた際に行けるようにしておきたい……と思いました。

しかし、こうやって一冊の本にまとまるほど奥が深い「立ちそば」の世界ですが、日頃つきあいのある在日華人のみなさんは、たとえ来日歴が相当長い方であっても、「立ちそばに行ったことがない」という方が多いんですよね。以前にも書きましたが、一般的に華人は、立ち食い、それも箸や腕など食器を使う立ち食いはしない・できないという方が多いです(もちろん例外はおられます)。

ハンバーガーや焼き芋みたいな「ファストフード」や、串に刺さった屋台の食べ物、飲み物類なんかはまあ立っていてもオーケーみたいなのですが、箸やお椀を手にしたとたん、どうしても椅子に座りたくなるらしい。で、万やむを得ず周囲に椅子がない場合は、仕方がないからその場に「しゃがむ」。どうして食器を使うと座りたくなるのか、これまでにかなりの数の華人に聞いてきたんですが、あまりはっきりとした理由は聞けていません。単に行儀が悪いからという方もいれば、立ち食いは消化に悪いという人もいました。

qianchong.hatenablog.com

華人がなぜ「立ち食い」が苦手なのか、その理由を調べたり研究したりしている方はいないのかしら。もし「先行研究」みたいなのがあったら、ぜひ教えていただきたいと思います。