インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

通訳者に女性が多い理由と男性の家事

春は学校の学期が変わる季節。私が非常勤でうかがっている通訳学校も生徒募集のための公開講座が何度か開かれ、私も出講してきました。講座の最後にQ&Aの時間があるのですが、先日はこんな質問が寄せられました。

日本の通訳業界は圧倒的に女性が多いそうですけど、それはどんな理由からだと思われますか?

う〜ん、どうしてでしょうね。通訳という作業は男性よりも女性の方が向いている、例えば女性の脳は左脳と右脳を結ぶ脳梁が男性に比べて太く、その分マルチタスクに向いているので、同時通訳のような極めてマルチタスク性が高い作業に長けている……といったような説明も聞いたことがあります。ただまあ私は、そういった理由もさることながら、日本社会の特質が影響しているんじゃないかと思って、Q&Aでもそのようにお答えしています。

それは、日本社会はいまだ「女性の社会進出が遅れている」いわば「男尊女卑」の社会だからじゃないかというお答えです。女性の社会進出が遅れていることがなぜ女性通訳者が多いことに繋がるのか? それは日本ではまだまだ家計の主たる担い手は男性で、男性がフルタイムで稼ぎ、女性はパートタイム的に稼ぐ+家事を担当というパターンが多く、そういう固定観念がなかなか崩れていないように思えるからです。

日本では(他の国の状況は詳しくありませんが)通訳者という職業は、一部のハイエンドを除いてはなかなか「食えない」職業です。それはこのブログでも何度も書いているように、もとより語学を扱う職業に対して、その重要性への認識が低い日本社会の反映でもありますし、また例えば通訳者という言葉のサービス業をなかば「イベントコンパニオン」的に捉えている方がまま見られるという現状からでもあります。

そもそも「イベントコンパニオン=女性」という図式そのものからして陳腐で噴飯物なんですけど、端的に申し上げて通訳者は、その業務の難しさや重要性に比して、社会的な地位が低いと言わざるを得ません。そしてそうした職業を主に女性がパートタイム的に担っている・担わされているというのがこの日本の非常に遅れている点ではないかと思うのです。そして主に女性が家事や育児を担当し、男性は外で働くというパターンがいまだ強固なのも、そうした傾向を後押ししていると思います。

家事や育児にしたって、積極的にその価値を認め、自らも主体的に関わろうとする男性はまだまだ少ないようです(もっとも私が若い頃に比べたら、いくぶんかは変化しつつあるように思えますが)。まだまだ過渡期で、これからの若い方々に期待(オジサンたちにはもうあまり期待できません)したいところです。実際、世の中の家事や育児に対する考え方は性差を超えて協同に向かっていく未来を私は楽観視しています。もちろんいまここで、待ったなしで育児や家事に困難を覚えている方々にとっては、何とも遅々たる進み方がじれったく憤ろしいでしょうけれども。

ごく当たり前の風景としての男性の家事

そんなことを考えていた先日、10年以上にわたって読み続けてきたマンガ『きのう何食べた?』の最新第15巻が発売になりました。今回は今春から同作のテレビドラマが始まり、それに合わせて公式レシピ本まで出版されるとあって、書店店頭での扱いもPOPなどかなり派手なようですね。

f:id:QianChong:20190327154330j:plain:w200
きのう何食べた?(15) (モーニング KC)

このマンガ、主人公の史郎氏とケンジ氏が私とほぼ同じ歳で子どもがおらず、しかも連載に合わせて歳を取っていく設定になっており、その「お年頃」にありがちな様々な課題——職場での立ち位置とか、親の老齢化とか、自身の身体の変化とか——がひとつひとつ自分の課題の引き写しでもあり、私にとってはとても共感を持って読める作品です。なおかつうちでは炊事・買い出し関係全般が私の担当なので、その点も共感できるとともに実用的なレシピ本にもなっているという……同時代にこの作品を読める幸せをいつも感じます。

マンガ作品の実写ドラマ化というのは、個人的には世界観が壊されそうでちょっと心配なんですけど、まあ私などがあれこれ言っても始まりません。それはそれとして楽しんで観たいと思っています。

筧史郎を演じる西島秀俊氏は、家電のコマーシャルで炊事をしていて(ちょっとおしゃれに過ぎるけど、まあそれはご愛敬)、いまだに炊事イコールお母さん(女性)の仕事みたいなステロタイプな描写が多い中、あれはとても新鮮だなと感じていました。先日偶然観たテレビ番組で、西島氏が「いま料理を練習中なんです」とおっしゃっていましたが、ドラマのためのお稽古でもあるのかもしれません。

ともあれ、ドラマではちゃっちゃと炊事をする、それもいわゆる「男の料理」とか「ホビー」といったものではなく、ありものや安いもので間に合わせるような炊事シーンがごくごく普通の、当たり前の家事の風景として描かれればいいな〜と思います。料理の手元は別撮りじゃなくて、西島氏ご自身の演技だったらもっといいな。お稽古の成果が出せるといいですね。