インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

「少しくらい……」という身勝手な行動への誘惑

ケイクス(cakes)で現在連載中の、エスムラルダ・田亀源五郎・溝口彰子の三氏による鼎談『表現とセクシュアリティーズ』を興味深く読んでいます。

cakes.mu

この連載は毎回興味深い話題が多いのですが、先回、ゲイ・エロティック・アーティストの田亀源五郎氏がおっしゃっていた、作家を守ることと海賊版との関係についてのこのくだりが印象に残りました。

この前アメリカで「クィア・コミック・カンファレンス」というのがあって出席してきたんですが、やっぱりそこでもネット上での海賊スキャンの話になって、もちろん、作家を支えることが重要、という話が出たのは同じなんですが、とあるパネラーがこんなふうにも明言していたんです。「あなたが違法サイトで見ることによって、広告料金が発生し、それが北朝鮮やロシアに流れています。だからあなたは間接的にテロリストを支援していることになるんですよ」。すごく印象深かったです。

なるほど。北朝鮮やロシアを「=テロリスト」とくくっちゃうのはさすがに雑駁だとしても、違法サイトの広告料金が闇に流れて反社会的な勢力の資金源に……というのはあり得る話だと思います。気になってこの件をあれこれ検索していたら、おそらく上述した田亀氏の発言の元になっていると思われるツイートと、そのリンク先にこういう記事を見つけました。一年半ほど前の記事ですが、確かに「違法サイト→闇の資金源」という流れはありそうです。

news.denfaminicogamer.jp

正直に告白しますと、かくいう私もそういう違法サイト(いわゆるリーチサイト)を利用していた頃がありました。そういうサイトを利用したことがある方はおわかりだと思いますが、やたらに広告が多く、また間違ったリンクに誘導してポップアップ広告を見せるトラップのようなものが数多く仕掛けられています。私はあれ、アフェリエイト目的なのかなと思っていたのですが、そうして荒稼ぎされたお金がどこに流れているかと考えると、かなり怪しいものがあると思います(まあサイトの存在自体が充分に怪しいんですけど)。

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https://www.irasutoya.com/2018/04/blog-post_933.html

もっとも私はあるときから、そういうサイトを利用するのはやはりよくないと考えて(当たり前ですけど)利用するのをやめました。ブラウザなどの履歴がGoogleなどの大企業に筒抜けで、これも回り回って信用履歴に影響してくると考えたのももちろんですが、それ以前にやはり「お天道様が見ている」という後ろめたさに抗いきれなかったからでもあります。いやはや、こんな歳になってもこの体たらくは恥ずかしい限りですけど、「自分ひとりが、少しくらいいいじゃない」という身勝手な行動への誘惑は、いくつになっても忍び寄ってくるものです。ま、他の方はどうだか分かりませんが、私みたいな未熟者はそうなんです。

先日読んだ佐々木閑氏の『ネットカルマ』にも、こんなことが書かれていました。

現実社会ならば「不正」「悪事」として非難される行為であっても、ネット世界に入り込んだとたん、日常の倫理観はネットの利便性にとってかわられ、「便利な機能をできるだけ効率的に利用すること」が善であり、「それを十分に利用せず、損をすること」が悪であるという、別の思考に切り替わってしまうのです。

う〜ん、これはまさしく「カルマ(仏教でいうところの「業」)」ですね。ネットにはこうした「倫理観を希薄化させるシステム」が組み込まれているという佐々木氏の指摘は傾聴に値すると思います。そして現実社会とネット空間は、それらがいずれも社会である以上立ち居振る舞いの行動規範は同じであるべきなのに、なぜかネットではつい易きに流れてしまう……田亀氏の発言から、そんなことを改めて思ったのでした。