インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

ハロー・ワールド

藤井太洋氏の『ハロー・ワールド』を読みました。ネット、ドローン、暗号通貨、自動運転車、スマホ用アプリにTwitter……今からほんのごくわずか先の世界が舞台の近々未来短編小説集です。いやもう、このギーク感と疾走感満載で、なおかつ最先端のネット技術(とりわけプログラミング)に関する知識がふんだんに詰め込まれたひとつながりの物語群、それこそ息つく暇もないくらいの勢いで一気に読み終えてしまいました。

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ハロー・ワールド

どこまでがリアルで、どこからが架空の世界なのか、専門知識の全くない私には判別がつきませんが、膨大な技術的知識をベースに書かれたとおぼしき細かい描写のほとんどすべては、すでに現実のものとなって動き出しているもの、あるいはほんのすぐ先に動き出すであろうものと思えるリアリティを帯びています。

帯の惹句に「革命小説」とある通り、かなり不安定で一歩先が見えない不穏な雰囲気が漂う物語世界なのですが、不思議に楽観的な気分になれるのは、物語群を貫く主人公である文椎泰洋(ふづいやすひろ)のキャラクターによるところが大きいのでしょう。この人物はウェブエンジニアとして確かな腕を持ちながらどこか抜けたような一面があり、高校生のような正義感も持ち合わせていて、超人や天才や変人などでは全然ないのです。一見技術オタクっぽい「ギーク」のようでいて、全く違う世界に棲息しているような雰囲気を持っているというか……。

彼は緊急時には、スマホiPhoneひとつでプログラミングを行い、アプリやソフトを改変し、遠く離れた海外の状況にコミットします。それも時に駅のホームや電車の中から。動いている電車の中からAmazonで商品を「ポチッ」と注文できるだけですごいなあと感動している私などとは桁違いの世界。それでもこれからはそれが普通の光景になっていくのかしら……というリアリティがありました。うちの学校の留学生諸君も、スマホ一つで課題をこなし、パワポ資料までスマホで作って提出してくるのです。もう同時代の風景なんですね。

インドネシアシンガポール、タイ、そして何より中国が物語の舞台として大きく絡んでいるのも魅力的でした。筆者はそう呼ばれることに違和感を持たれるでしょうけど、私にとってこれは「近々未来中華系SF」。中国語があちこちに登場して、臨場感を高めてくれるのも心地よかったし、特に最近興味のあるキャッシュレス社会や暗号通貨について、その向かう先に現れてくるかもしれない社会の様相が示唆されているのにも、ちょっと興奮を覚えました。

この本を読む前に浜矩子氏の『「通貨」の正体』を読んだのですが、その中で語られている氏の持論(らしい)「ユーロ終焉の可能性」や、かつてケインズが提唱した国際通貨「バンコール」の復活? などというお話と相まって、様々な未来の可能性について頭の中がかき回されているような感覚になっちゃっているところです。