インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

ペダンチックな私

先日YouTubeでいくつかの「TEDトーク」を視聴しているうちに、ウィル・スティーブン氏の「TEDxで賢そうにプレゼンする秘訣」という動画に偶然行き着きました。

youtu.be

スタンダップコメディみたいな一種のお笑いパフォーマンスですけど、いかにもTEDふうのプレゼンテーションをしながら、そのプレゼンテーションそのものがはらむ危険性を鋭く風刺しているように思えます。それは例えば「それっぽいパワポ資料を作り込むことで何かすごいことを考えたつもりになってしまう」講演者自身の危険でもありますし、また「述べられていることを自分なりに批判・検証せず、何かすごいことを聞くことができたと高揚感に浸ってしまう」聴衆の危険でもあるような気がします。

私はこの動画を見て笑いながらも、自分が人前で話しているときも似たようなことをしているのではないか……と冷や汗が流れるのを感じました。例えばこんな場面(日本語のスクリプトこちらからダウンロードさせてもらうことができます)。

……知的な話し方をし、ここでこの人の写真を持ち出します。何か重要な事をした人でしょう、きっと。でも、私はこれが誰だかさっぱりです。ただ「科学者」とググって見つけただけですから。これでまるで私が主張を重ねて理論展開をしているかのように、そして皆さんに人生を変えたいという感じにさせます。


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わははは、私もこういうふうに「重要なことをした人」の写真をスライドに持ち出して話しています。もちろん適当に「ググって」来たわけではなく、話の流れとして必要だから入れているんですけど、「主張を重ねて理論展開しているかのように」とか「皆さんに(の)人生を変えたいという感じに」というの、冷静に自分を振り返ってみると「イタい」なあと。

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円グラフや棒グラフなどをつかって、いかにもエビデンスがありますよ的なスライドも紹介されていました。

次にグラフを見て行きましょう。この円グラフを見ると分かるのは、多数派は少数派を大きく超えている事です。皆さん分かりますか? おもしろいですね。この棒グラフを見てみましょう。同じ様に無関係なデータが出てます。こうして準備周到っていうような感じにしていきます。


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ぐぬぬぬ、私もグラフを使っています。これは通訳業界では「英日」と「中日」で「ネイティブ(母語話者)」の割合がずいぶん違うので、日本語母語話者の中国語通訳者のアドバンテージは何より日本語への訳出ですよ、だから中国語がまだまだ力不足だからと「日→中方向」ばかり頑張るのではなく、母語のブラッシュアップも必要ですよ……てなことを説明する際のスライドです。

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もちろんこれは完全にデタラメというわけではないけれど、なにかの統計を正確に反映したものではなく個人の主観に過ぎないこと(この点は話す際に断りを入れています)をグラフの力でより「知的」に見せようとしている……というきらいはあるかもしれません。

さらに「賢そうなプレゼン」に登場しがちなビジュアル(写真)についてのくだりも爆笑してしまいました。

私の後ろを見てください。単語とともに 何か意味ありげな写真が映されています。それを指差して私達が有効に時間を使っている風に見せます。


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うおおお、私も同じような写真(イラスト)を使っています。特にこういう、脳科学系の知見を利用してますよ的なエクスキューズを入れつつ、自分の話を「盛る」というか信憑性を増すように手を入れているわけですね。ビジュアルの力を借りて。

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学生時代、先生や友人から「理屈っぽい」とか「衒学的(ペダンチック)」などと言われていたのを思い出しました。自分自身は「頭でっかち」だと思っていたんですけど、頭でっかちは「知識や理論が先走って行動が伴わないこと」ですから少なくとも知識や理論は頭に入っているわけですよね。もし私が、入っていないのにペダントリーに振る舞っちゃってるんだとしたらもっと危ないな……と、この動画を見て思ったのでした。

そういやこのブログ文章も、「エビデンス」だの「アドバンテージ」だの「ブラッシュアップ」だの「エクスキューズ」だの……けっこう衒学的な感じがしますねえ。

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https://www.irasutoya.com/2015/11/blog-post_578.html