インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

理屈だけではない何か

食材にこだわって盛り付けにもこだわって、とっても「凝りまくり」なんだけど、あまりおいしくない料理ってありますよね。

昨年だったか、『マツコの知らない世界』の「たらこパスタ」がテーマだった回で、最高級たらこをはじめ、最高級パスタ、最高級のり、最高級かつおぶし、最高級バター……などなどを使った究極のたらこパスタが意外にまとまりのない味だった(それぞれの食材が主張し合っちゃう?)というシーンがありましたが、料理のおいしさの成り立ちって、理屈だけではないなかなか玄妙なものがあるようです。

Paravi マツコの知らない世界 #146 スペシャル「たらこパスタの世界」
https://www.paravi.jp/watch/25809

先日、所用で夜遅くなり、細君も知人と外食してくるから夕飯は要らないというので、帰宅前に自宅近くのラーメン屋さんに入りました。以前から「ここはなかなかおいしそう……」と気になっていた店構えで、入ってみるとお店の人がとても優しくて、「味を薄めにという注文も可です」と中高年には嬉しいことが書かれてあって、様々な食材へのこだわりを書いたカードがカウンターに置いてあって、「味変」を楽しめる食べ方指南まであって、店内のそこここに店主さんの意気込みが感じられる雰囲気でした。

頼んでみた定番とおぼしきラーメンは「無化調」で、野菜がたっぷり溶け込んだようなスープで、トッピングもローストビーフみたいにレアな仕上がりのチャーシューをはじめ、さまざまな野菜、自家製とおぼしきメンマ、糸唐辛子やかいわれ大根などの薬味、さらにはおそらくオリーブオイルなんかも散らしてあって、「着丼*1したときは思わず「わぁ〜っ」と盛り上がりました。そして箸をつけてみると、これがものすごく……おいしくなかったのです。

う〜ん、究極のたらこパスタと同様にそれぞれの食材が主張し合っているんですけど、旨みや香りや食感などのプラス要素が主張し合っているのではなくて、それぞれに何か雑味や臭みや歯触りの悪さや温度の低さがあって、それらマイナス要素がどうにもまとまらず、全体的にとっちらかっている印象でした。周りのお客さんはけっこうおいしそうに食べてらっしゃったから、単にこちらの味覚の問題かもしれないんですけど。

料理って難しいんだな、と思いました。邪推ですけど、こちらのお店の方は、もしかすると料理の修行はあまりしたことがなく、理屈だけでラーメンを組み立てたのかもしれません。もちろん、ラーメンを作るのに料理全般の修行が必要とは限りませんし、とてもおいしいラーメン店の作り手が全て修業時代を経て独立していくものとも限らないでしょう。それに料理はつまるところ一種の物理学と化学の世界で、理詰めで追求していけばおいしい料理が作れそうなものです。愛情を込めて作ればおいしくできるなどというものではないですよね。

でも、初手からいきなり「要は個性の発揮だ! オリジナリティだ!」と凝り凝りに凝っても、結局は薄っぺらいものしかできあがらないような気がします。繰り返し繰り返し修行して身体で覚えた感覚やちょっとした加減が、最終的には仕上がりの大きな違いとなって表れるのではないでしょうか、それこそ「バタフライエフェクト」みたいに。これはひとり料理に限らず、どんな技術についても言えることではないか、やっぱり基本を固めるって大切なことなんだなと思いました。

……ラーメン一杯食べるのに、こんなことつらつら考えちゃって、めんどくせえ奴だなと自分でも思います。

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https://www.irasutoya.com/2017/08/blog-post_529.html

*1:しかし「味変」も「無化調」も「着丼」も解説が載ってるWeblio辞書ってすごいですね。