インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

広場ダンスと忠字舞

先日、通訳訓練のひとつ「サマライズ(要約)」の授業で、こんな興味深い動画を使ってみました。中国のお年寄りがどうして「廣場舞」に興じるのかについて、「廣場舞」のドキュメンタリー映画を撮った監督さんが解説をしています。

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中国語の「廣場舞」は、まあ「広場(での)ダンス」とでも訳せるでしょうか。中国各地の広場や公園でよく見られる、市民によるダンスです。主に中高年の方々が主体で、広場に集まってラジカセで大音量の音楽を流し、様々なダンスを踊るというのが基本。ダンスの種類はヒップホップみたいなのもあれば、「秧歌」という農村での伝統的な踊りから発展してきたダンスもあれば、ほとんど太極拳みたいなのもあります。

この監督さんによれば、中国のお年寄りが現在「広場ダンス」に興じるのは、「文革プロレタリア文化大革命)」などの政治的混乱に翻弄された青春を取り戻す、あるいは懐かしむ気持ちと、高齢者独特の辛い心境や孤独感などを和らげたいという欲求からではないかとのこと。高齢者の置かれる境遇はどの国も同じようなものがあるでしょうけど、日本ではこうした「広場ダンス」の文化はあまり見られないですよね。これは中国ならではのお年寄り文化と言えるかもしれません。

日本に「広場ダンス」が見られないのは、住宅環境や広場・公園のあり方が中国とはずいぶん違っているからでもあると思います。実際に中国で「広場ダンス」をご覧になった方はお分かりかと思いますが、あれってかなり大音量の音楽を流していて、けっこう「近所迷惑」なんですよね。日本でやったらすぐに警察に通報されそうです。

その中国でも、最近は「広場ダンス」に興じるお年寄りの世代と、その他の世代、例えば若者たちとの間でトラブルも起きているのだそう。中国語に「擾民」という言葉もありまして、これは「市民生活を乱すこと、住民に迷惑をかけること」で、まさにこうした「広場ダンス」を巡るいさかいなどで使われます。

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ところで、この教材に使用した動画の中に、文革時代によく踊られたという「忠字舞」が出てきます。毛沢東主席に絶対的な忠誠を誓う意味を込めた一種のダンスで、こんな感じです。

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これは実際の映像ではなくて、映画の一シーンとして撮られたものですが、勇ましいというか熱狂的というか、「政治の季節」ならではの一種独特の雰囲気があるダンスですよね。この「忠字舞」、台湾出身の生徒さんはまあご存じないのも無理はないと思うのですが、中国出身の生徒さんも「なにそれ?」という感じでした。

そりゃまあそうでしょうね。「忠字舞」を踊ったり目にしたりしたことがある世代は現在おそらく60代とか70代くらいのお年寄りで、若い世代の方々がご存じないのも無理はありません。

ご両親や祖父母から話を聞いたこともないのかな、とは思いますが、国家自体が文革を早々と総括して「黒歴史」として教育現場でもほとんど触れないそうですし、文革世代の方々も劇的な変化を遂げ続ける現代中国のなかで忙しく生きてらして、子供と一緒に「憶苦思甜(昔の苦しみを思い起こして現在の幸福をかみ締める)」しているヒマなどないのかもしれません。

ただ私は、外野が余計なお世話だと言われるかもしれませんが、中国の人々にとって文革をもう一度捉え直す作業はこれからこそ大きな意義を持ってくると思っています。日本の私たちがいまだに歴史の負の遺産を乗り越え切れていないのと同じような意味合いで。

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