インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

この国で働きたいと思ってくださる方々のために

つとめている専門学校では、早くも来年度4月入学生の入学試験が始まっておりまして、私も面接担当などで時々受験生のみなさんとお目にかかることになります。

受験されるのは日本語能力検定試験でいえば二級レベル前後のみなさん。日本語での意思疎通は基本的にあまり不自由しないレベルですが、そこはそれ、入試の面接なので、中にはかなり緊張してらっしゃる方もいます。自己紹介や志望理由の説明など「定番」の部分では明らかに暗記してきたような文章を話される方もいて、こちらもなんとなく緊張するというか、身構えてしまいます。

あまり詳しくは書けないのですが、うちの学校は生徒さんの日本語習熟度にあまり差がありすぎると教学に影響するので「全入」方針は採っておらず、一定レベル以下の方は残念ながら落としてしまう(まあ当然といえば当然なんですけど)ので、受験生の留学生はもちろん、私たちも真剣に面接試験に臨んでいます。

ところで、数十年前ならいざ知らず、現在でも入試面接では「日本は様々な面で先進国で……」といった常套句を話される留学生が多くて、そのたびに私はやはり大きな違和感を覚えてしまいます。日本はここ二十年ほどで、ほんとうに活力の失われつつある国になってしまいましたから。それでも私はまだこの国に希望を持っていますし、そんな日本が好きで、卒業後はぜひ日本で働きたいと希望される若い方々もまだ一定数いるのが救いです。

先日の日曜日にTBSの『サンデーモーニング』を見ていたら、評論家の荻上チキ氏が、現在国会で審議が行われている入管法改正案(今日にも衆議院では採決が行われると報道されていますが)について、結局は「現代の奴隷制度」との悪名高い技能実習生制度の追認と拡充にしかなっていないといった主旨の解説をされていて、なるほどと思いました。

本来であれば、外国人労働者の大半を「技能実習生か留学生でまかなう」というこれまでの「側面から受け入れる(サイドドア)」やり方をあらため、きちんと法整備などをして「正面玄関から迎え入れる」制度設計をするべきなのに、現在の国会審議はそういった課題のほとんどを積み残したまま拙速に話を進めていると。

それで以前読んだ『シノドス』のこちらの記事も再読しました。

synodos.jp

これは様々なテーマを含んだ記事で読み応えがありますが、特に外国人労働者の受け入れに限ってピックアップすると……

おそらく日本が移民政策を進めたら、多くの人たちが東アジアからやってくるとでも思っているのだろう。しかし、東アジア地域は途上国(タイ、ベトナム等)も含め、あと数年のうちに「少子化」のモードに入る。日本人が考えている以上に日本の経済は弱体化していて、賃金の上でもけっして優越的な位置にはない。頭を下げても来てくれない、その可能性を考えたことはあるだろうか。

(中略)

労働力の確保はもはや手遅れ気味ではあるが――現状、米仏独と異なり、日本に来る金銭的・社会的メリットがもはやなさすぎるので、そこのあたりのちゃんとした待遇・権利保障・教育システム、多様な職種・生き方が併存可能な形を整え――移民や外国人労働者三顧の礼できていただくしかない。勘違いしてもらって困るのは、移民受け入れ策に切り替えても、日本が外国人労働者/あるいは移民になる意志のあるひとにとって、もはや魅力がさほどないぐらいに「堕ちた社会」になっているということだ。「アジアのひとたちのあこがれの地」などと夢想するのは不遜なうぬぼれというものである。

この辺りの現状認識は、特に同感です。今こそやるべきは実質奴隷労働に等しい技能実習生制度の拡充ではなく、真っ当な移民政策の策定ですよね。

この記事で北田氏がおっしゃっている「治安云々を言うのであれば、貧困や経済的な困窮と犯罪との関連のほうがよっぽど深刻に懸念されるべきだ」という点、そして外国人労働者が「安心して生きていける環境・法整備を『最低限度先進国として当然のレベル』にまで持っていく」べきだという点が今の議論に最も欠けていると思います。

ところが周囲とこの問題を話していても、外国人労働者=安い賃金・日本人がやりたがらない業種・治安の悪化といった切り口でしか話が深まらず、そもそも現在の日本がどういう立ち位置の国になっているのか、他の国の人々からどう見られているのかについて、まるでこの数十年間時が止まっていたのかと思えるくらい現状認識が的外れのような気がするのです。

とはいえ、かくいう私も、今まで在日外国人や留学生と日常的に接する環境に長くいながら、外国人労働者の受け入れや移民の問題についてはそこまで深く、というか自分の今とこれからの問題としてきちんと向き合っていなかったと思い、自らを恥じています。いま慌てて過去に読んだ記事や本を再読し、新たな資料も探しているところです。

追記

……と思っていたら、昨日の東京新聞朝刊一面は法廷通訳者に関する話題でした。外国人労働者を巡る環境の変化を踏まえて「待遇の改善や研修の充実が必要だ」と。その通りだと思います。一面の他に、特報面でも見開き紙面で詳細に現状をレポートしています。ご興味のある方はぜひご一読いただきたいと思います。

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とはいえ、この話題で大切な視点は「外国人労働者が増えれば犯罪も増える」ではなく、不公正や人権侵害を放置したまま増やせば低所得や劣悪な環境から犯罪も増える可能性がある(そしてそれは日本人外国人を問わず同じである)という点です。「法廷通訳者増が急務→だって外国人労働者は犯罪を犯しがちで危険だから」という短絡に走らぬよう冷静にことを見据える必要があると思います。

さらに追記

今朝の東京新聞朝刊特報面では、外国人労働者の受け入れに関連してさらに日本語学校の現状についても記事が組まれていました。そこでも大きな問題の一つとして挙げられているのは、日本語教育に携わる方々の待遇の悪さです。通訳者・翻訳者といい、語学教師といい、善意にばかり頼ってきちんとした報酬が確保されていない現状。

でもこれはひとり語学業界だけでなく、医療や介護などの現場でも繰り返し指摘されてきていることですし、ほかの業界でも同じような状況はきっとあるでしょうね。となれば抜本的な改善策の一つは経済を活性化していくことになるんでしょうけど、この辺りはどうにも不案内でこれも恥ずかしいのでもっと勉強しなければならないですね。よくリベラルや左派は「経済音痴」だと揶揄されますが、確かにそうなのかも(私も含めて)しれません。