インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

お店のご主人の「指導」がやるせない

先日、私の誕生日祝いということで、細君と二人で地元のお寿司屋さんに行きました。銀座とか青山とか、そういうところのお寿司屋さんではないので気さくな雰囲気ですが、それでもお値段は我々にとってはなかなかにインパクトがある、まあどちらかと言えば高級なお店です。

おつまみ系とお寿司、それに日本酒。どれもとても美味でしたが、わずかに気になったのはお店のご主人が若い衆にあれこれ注意するという点でした。若い衆は笑顔一杯で接客も丁寧でしたが、ご主人はちょっとした動きの「不経済さ」をたびたびとがめるのです。

先にこれを出してから、次にこれをやれば、何度も行き来しなくていいだろ? 作業のあとさきを考えてないからそうなるんだ。

まあこんな感じです。もちろん小さな声で、さりげなくおっしゃるのですが、なにせカウンターだけの小さなお店のこと、目の前で「指導」されていると、否が応でも聞こえてしまうんですね。

ご主人には若い衆を育てるという使命がおありでしょうし、若い衆のためにもなっているのでしょうけど、私はこういうの、ひどく苦手です。そういう「指導」を聞くだけで、料理のおいしさも半減してしまうんです。そういうのは、できればお店の奥でやっていただけると助かるんですけど。

別にお寿司屋さんだけじゃありません。こういう上から下への「指導」を客の真ん前でおやりになるお店はけっこうありますよね。その「指導」はお店的には妥当で意味のあるものなのでしょう。でも私は、そういうヒエラルキーというか、上から下への強い圧力を感じさせる雰囲気に接したとたんに、おいしいものを味わう気持ちが萎えてしまうんです。

久住昌之氏と谷口ジロー氏の名作『孤独のグルメ』というマンガに、主人公の井之頭五郎が東京都板橋区のとあるレストランでハンバーグランチを食べるエピソードがあります。お店でアルバイトをしている留学生と思しき青年に店のご主人があれこれ怒鳴るのですが、それを目の前で聞いていて食欲が失せてしまった井之頭五郎はこんなことを言います。

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そうなんですよね。お寿司であれ、ラーメンであれ、ハンバーグランチであれ、ネガティブな言葉を聞きながら食べることほどやるせなく「救われない」ことはないと思うのです。ご主人が心得ていらして、客の前ではいっさいこの種の「指導」をしないというお店はあります。そういうお店にこそ行きたいと思います。