インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

しまじまの旅 たびたびの旅 番外篇 ……ヘラヘラ・マガジン

美術を学んでいた学生時代、大きく影響を受けた本があります。岩田健三郎氏の『ヘラヘラ・マガジン』です。どこで買ったのかも覚えていませんが、偶然手にしたその本にはとても衝撃を受けました。なにせこの本、表紙から裏表紙まで、カバーやカバーの袖、見返しや扉、もちろん本文の隅々に到るまで(ノンブルや奥付けも)、すべて岩田氏がひとりによる、手描きの文章と絵で埋め尽くされているのです。

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今はなつかしい製図用の「ロットリング」ペンで緻密に書き込まれたその文字は、岩田氏独特の味のあるくせ字ながら不思議な統一感があって、このままフォントにできそうなくらい。絵もそのデフォルメと大胆な構図の一方で、決して声高に主張する類のものではなく、ほんわか、じんわり、心に染みてくるような雰囲気です。

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とくにこの、黒と灰色、二色の墨で表現されたイラストに私はとことん魅了されて、しばらく模倣してそんな絵ばかりを描いていました。黒は筆ペン、灰色はこれも香典用の薄墨筆ペンです。

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ご縁あって、川口祐二氏の『女たちの昭和 島に吹く風』や石牟礼道子氏の『食べごしらえ おままごと』(初版)に使って頂いた挿絵も、まんまその延長上です。

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岩田健三郎氏の『ヘラヘラ・マガジン』に戻って、この本の中でも特に魅了されたのは、「それぞれの旅 たびたびの旅」と題された、連作の紀行マンガです。紀行といっても岩田氏のそれは観光地のルポなどではなく、ご近所であったり、取材の旅先であったり、とにかく市井に生きる人々、あるいは生きた人々のかすかな息づかいが聞こえてくるような、なんとも内省的で思索に満ちた作品群なのです。

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このブログで書いている「しまじまの旅 たびたびの旅」というエントリも、ここへのオマージュ、というかここから拝借したタイトルです。昔から離島にとても憧れていて、離島をてんてんと旅するのが好きだからですが、いつまでたっても岩田氏の模倣が抜けない私。それだけ大きな影響を受けましたし、いまもこの本は繰り返し繰り返し読んで楽しんでいます。

ところで、ふと、岩田健三郎氏はいま何をしてらっしゃるのかしら、と思いました。ネットで検索してみると……

himeji.mypl.net

おおお、今でも故郷の姫路にご健在で、精力的に絵を描いていらっしゃるらしいです。「ヘラヘラつうしん」というご自身のウェブサイトまでありました。あれだけ私淑しておきながら、今になって初めて知る私。「川のほとりの美術館」というギャラリーも運営されているよし。近いうちにぜひ訪ねてみたいと思います。