インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

フィンランド語 8 … 単数と複数、そして「脚韻ふみまくり」

フィンランド語は人称代名詞が単数から複数になると、それに合わせてolla動詞も変化します。まあこれは他の言語でもよくありますよね。

人称代名詞

単数
minä olen … 私は…です。
sinä olet … あなたは…です。
hän on … 彼/彼女は…です。
複数
me olemme … 私たちは…です。
te / Te olette … あなたたちは…です。
he ovat … 彼ら/彼女らは…です。

この時、複数の二人称で人称代名詞が「te」と「Te」の二つ出てきます。この大文字の「Te」は敬称の人称代名詞(あなたさま、という感じですかね)で、なんと単数扱いなのだそうです。olla動詞は複数形でも単数。なおかつ「あなたさまたち」とでも言うべき敬称の複数はないのだとか。面白いですねえ。

疑問詞と指示代名詞

さらに、疑問詞や指示代名詞も単数と複数で形が違い、olla動詞も変化します。

疑問詞
単数
kuka on ? 誰ですか?  mikä on ? 何ですか?
複数
ketkä ovat ? 誰たちですか?  mitkä ovat ? 何たちですか?

「誰たち」「何たち」というのはなかなか新鮮な表現です。

指示代名詞
単数
tämä on … これは…です。  tämä ei ole … これは…ではありません。
tuo on … あれは…です。  tuo ei ole … あれは…ではありません。
se on … それは…です。  se ei ole … それは…ではありません。
複数
nämä ovat … これらは…です。  nämä eivät ole … これらは…ではありません。
nuo ovat … あれらは…です。  nuo eivät ole … あれらは…ではありません。
ne ovat … それらは…です。  ne eivät ole … それらは…ではありません。

名詞など

名詞も、例えば「猫→猫たち」のように複数形があります。複数形の作り方は格変化の「ssA」や「llA」でやったときと同じように、単語の最後に「t」をつけて表されます。

●「tyttö(少女)」に複数の「t」をつけてみる。
tyttö + t
①単語の最後は「ie子」以外なので不変化。
②最後の音節「ttö」に「kpt」があるので変化。t→tt
したがって、tytöt(少女たち)。

●「poika(少年)」に複数の「t」をつけてみる。
poika + t
①単語の最後は「ie子」以外なので不変化。
②最後の音節「ka」に「kpt」があるので変化。k→×
したがって「poiat」になりそうなのですが、「oia」が三重母音になってしまうので、「i」が「j」に変化して「pojat(少年たち)」となります。この「i→j」という変化で一番典型的なのが「poika」だそうです。

●「kissa(猫)」に複数の「t」をつけてみる。
kissa + t
①単語の最後は「ie子」以外なので不変化。
②最後の音節「ssa」に「kpt」がないので不変化。
したがって、kissat(猫たち)。

さらには、何と形容詞まで複数化します。日本語ではなんとも訳しようがないので複数形になっても訳語は同じですが……これもなかなか面白いです。

●「pieni(小さい)」に複数の「t」をつけてみる。
pieni + t
①単語の最後は「ie子」なので変化。外来語ではないので「i→e」。
②最後の音節「ni」に「kpt」がないので不変化。
したがって、pienet(小さい)。

●「kiva(素敵な)」に複数の「t」をつけてみる。
kiva + t
①単語の最後は「ie子」以外なので不変化。
②最後の音節「va」に「kpt」がないので不変化。
したがって、kivat(素敵な)。

こうして、指示代名詞も名詞も形容詞も複数形に変化するので、例えばこうした文ができ上がります。

単数
Tämä pieni kiva kissa on pöydällä.
この小さくて素敵な猫はテーブルの上にいます。

複数
Nämä pienet kivat kissat ovat pöydällä.
これらの小さくて素敵な猫たちはテーブルの上にいます。

kissa(猫)という名詞が複数になったのに呼応して、Tämä(指示代名詞=実は形容詞扱いだそう)、pieni(形容詞)、kiva(形容詞)、さらにはolla動詞ももちろん、それぞれ全部が「右に倣え」で複数形になるというわけです。しかも複数形の語尾「t」がついた部分は「ピエネット・キヴァット・キッサット・オヴァット」……みんな「t」で脚韻をふみまくり! 先生によれば、フィンランド語はこの脚韻を踏みまくるのが特徴的で美しいのだとのこと。

有名なフィンランドの民族叙事詩「Kalevala(カレヴァラ)」でもこの脚韻が美しく展開されるのだそうです。いつか読めるようになるのが楽しみです。

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