インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

何も知らずに旅行に出かける

先般の北欧旅行は、どの国も印象深かったのですが、いちばんいまの自分に心地よく感じられたのはフィンランドでした。彼の地については事前にあまり知識を入れず、なるべく観光ガイドや旅行記なども読まないようにして行きました。観光旅行って、事前に本やネットなどで仕入れていた情報を確認するのに追われて、確認したら満足して結局新たな感動はなかったというようなパターンに陥りがちなので。というか、単に旅の前にあれこれ周到に考えて準備するのが面倒だというだけなのかもしれませんが。

もとより人の多い場所は苦手なので、どの国や地域に行っても、観光地としておすすめされている場所より、なるべくフツーの暮らしがなされているフツーの街並みを歩きたいと思っています。こういう旅の仕方は、家族や友人など「連れ」がいると、自分の感覚だけ押しつけるわけにもいきませんから難しいですね。家族や友人と行く旅も、それはそれで楽しいのですが。

フィンランドについては、帰ってきてから一気に情報を入れました。情報を入れると「こんな面白い場所があったのか」「これを食べておけばよかった」的な気づきがたくさん訪れて悔しがる羽目に陥るのですが、それはそれでまた訪れてみたいという動機になるので、いいかなと思っています。

帰ってきてすぐ、群ようこ氏の『かもめ食堂』を読みました。あんた、これすら読んでなかったの? とツッコミがきそうですが。


かもめ食堂 (幻冬舎文庫)

続けて映画も。


かもめ食堂

しかしまあ、ん〜、なんというか……。映画の公開当時はかなり評判になったような記憶がありますし、ヘルシンキには実際に「かもめ食堂」ができて観光名所にもなっているそうですが、ごめんなさい、この小説も映画も、私にはあまり合わなかったみたいです。ただ映画に出てきた「コーヒーは自分で入れるより、人に入れてもらう方がおいしいんだ」という台詞には深くうなずきましたが。

あ、それから、これも映画にも出てきましたが、文庫本の表紙にもなっているかもめのイラスト、『かぼちゃを塩で煮る』の牧野伊三夫氏の作品だったんですね。

さらに、映画にも出演されていた片桐はいり氏のエッセイも読みました。


わたしのマトカ (幻冬舎文庫)

片桐氏と言えば、私にとっては若い頃よく見た劇団「ブリキの自発団」の「怪優」さんですが、当時の不思議で破天荒な雰囲気も彷彿とさせつつ氏独特の「ほんわか」した雰囲気も漂いつつの文体で、こちらはとても楽しく読みました。

映画の撮影中に通訳者を介したコミュニケーションをしている場面があって(p.61)「通訳者が直訳だけでなく解説を入れないと、フィンランドの男性の気分は中々分からない」とありました。なるほど。通訳者は一人称で訳す、つまり「この人の言っていることは……」などと訳さないのは鉄則ではありますが、そこはそれ、そうではない世界があってもよいのかも、と思いました。

中華系の方がやっている食品スーパーの話(p.68)も共感するところが多かったです。ヨーロッパをしばらく旅行していると、和食はあまり恋しくならないんですけど、なぜかラーメンや中華料理は食べたくなるんですよね。

フィンランドといえばムーミンノキアイッタラマリメッコ、アラビア、それに音楽家のジャン・シベリウスと「フィンランディア」、建築家のアルヴァ・アアルトくらいしか思い浮かばないので、ちょっと歴史のお勉強もしてみました。


物語 フィンランドの歴史 - 北欧先進国「バルト海の乙女」の800年 (中公新書)

交響詩フィンランディア」が帝政ロシアからの独立運動を背景にしていたことくらいしか知りませんでしたが、この国の、特にロシアとスウェーデンとの関係はここまで長く根深いものだったんですね。改めて地図を見ると、たしかにフィンランドは、ロシアと長い長い国境線で接しています。他の北欧諸国の言語とはかなり隔たっていると言われるフィンランド語にも興味がわきました。

というわけで、フィンランド語の業界(?)ではなかば古典的な一冊になっているらしいこの本も読んでみました。


フィンランド語は猫の言葉 (講談社文庫)

初版第一刷の発行は1981年。今から40年近くも前にヘルシンキ大学へ留学した稲垣美晴氏のエッセイです。この本によればフィンランド語は名詞の格が15もあるなど、なかなか複雑な言語らしい。その複雑な言語と日本語の間で煩悶する日々のあれこれは、語学学習者なら誰もが共感できることばかりです。

稲垣氏は藝大の彫刻専攻だったというのにも驚き、何だかご縁を感じました。さらに初版の出版社が今の私の職場(の一部門)で、これも勝手にご縁を感じています。稲垣氏はその後、主にフィンランドの児童文学を中心に、広くフィンランドの文化を日本に伝える会社を運営されているそうです。

猫の言葉社 | フィンランド文化を伝える出版社 - フィンランド文化を伝える出版社

こないだ能のお稽古に行ったら、師匠から「フィンランドといえば『シナッピ』ですね」と言われました。なんでも、マスタードの一種でいろいろなテイストがあり、とても美味しいそうです。お土産にもぴったりとか。知りませんでした〜。稲垣氏のエッセイに出てきた「世界一まずい飴」と呼ばれる「サルミアッキ」や、『かもめ食堂』にも登場したアルコール度数の高いお酒「コスケンコルヴァ」ともども、次回の旅行ではぜひ試してみたいと思います。今度はできれば夏に、田舎や北の地方にも行ってみたいですね。あとサウナにもぜひ入ってみたいです。