インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

「頭でっかち」は先鋭化する

またまた「SUSONO(すその)」のトークイベントに参加してきました。今回のテーマは「食べる」。作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏と、オイシックスドット大地代表取締役会長の藤田和芳氏の対談がメインのイベントです。

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susono.life

有機野菜やオーガニック食品の宅配や産直の草分けとして有名な「大地を守る会」。このある意味「伝統的」な市民運動発祥の会社が、ネット+オーガニックという「現代的」なイメージのOisix経営統合したのが昨年秋でした。かなり意外な印象でしたが、藤田氏のお話を聞くと、そこには必然ともいうべき情勢の変化があったのでした。

まずは40年という長きにわたって、生産者と消費者を結びつけてきたネットワークと経験を有する大地を守る会。食のあり方が大家族での家庭料理から少人数あるいは個食へと変化してきた現代に登場したネット通販に強みを持つOisix。両者が手を携えた背景には、日本における有機野菜やオーガニック食品の業界がまだまだ発展途上だという現状があったようです。

発展途上ということは、大きな伸びしろがあるということで、実は人口比で見ても欧米に比べてまだ「有機・オーガニック」への関心や需要が薄い日本を狙って、海外からの参入が始まりつつあるとのこと。例えば昨年オーガニックスーパーのWhole Foods Marketを買収したAmazonや、すでに麻布十番に一号店を出店したbio c' bonなどです。

blogos.com
www.bio-c-bon.jp

上の記事にあるように、AmazonはWhole Foodsの食品をPrime Nowで宅配することも始めたそう。これが日本の都市でも始まったら大きなインパクトがありそうです。すでに海外勢による日本の生産者へのアプローチも始まっているとのことで、藤田氏は日本に有機農業やオーガニック食品がもっと広まって欲しいという願いとともに、日本の農業をもっと守ってあげたいという思いから「オールジャパン」で立ち向かおうと、経営統合へ舵を切ったようです。なるほど、そういう背景があったのですね。

これだけでもとても興味深くて面白い対談でしたが、個人的には「市民運動原理主義化」についてのお話にうなずくことしきりでした。

「頭でっかち」は先鋭化する

私事ですが、私は大学在学中に有機農業に興味を持って、産直や共同購入で手に入れた食品で自炊したり、自然食品店でアルバイトをしたりしていました。当時は友人から「そんなに長生きしたいの?」などと揶揄されるくらい認知度の低かった「有機・オーガニック」でしたが、この辺りの状況を藤田氏は「大地発足当時、自然食品店というと漢方薬店的『抹香臭さ』があった。それが80年代後半からおしゃれな自然食品店が登場し始めたナチュラルハウスなど)」と振り返っていました。そうそう、私もどちらかといえばそういう「おしゃれ」な部分に惹かれていたと思います。

佐々木氏も「当時の自然食品店の店主は、自然ないい物を食べているはずなのにどこか不機嫌で不健康そうに見えた」と諧謔で応じていましたが、そうではない形のお店が増えつつある時代だったんですね。1986年のチェルノブイリ原発事故後の反原発運動の盛り上がりとも軌を一にしていました。私がアルバイトしていたのは「ポランの広場」系列のお店でしたが、店主は「不機嫌・不健康」とは無縁の、とても朗らかで開明的な脱サラ組のご夫婦でした。

それから、「市民運動は頭だけで考えるとラジカルになる」という藤田さんの言葉も「刺さり」ました。運動の針が純粋に振れすぎると、周囲の小さな差異が許せなくなり、先鋭化し、多様性が認められなくなると。確かにそうだなあ。伊丹十三氏の映画『タンポポ』に、そんな親御さんの存在を匂わせる男の子が出ていましたね。首からにんじんぶら下げて、この子に出来合いのおやつを与えないで下さいっていうの。

私は大学卒業後に帰農を目指して田舎に移住し、農業のまねごとや産直の運営などに挑戦するも、最終的にその夢破れて東京に戻ってきた人間ですが、その前後に関わったいくつかの市民運動や労働運動にもそういう「匂い」がありました。リベラルなはずなのにとても非寛容という方もいて、私はだんだん距離を置くようになってしまいました。

例えば、これは運動の本流から見れば些細な問題かもしれませんが、当時は受動喫煙を何とかして欲しいと訴えるだけで、ものすごい批難と批判を受けたものです。その批難と批判をされる方々は一方で反公害運動や公害病患者支援運動を支えている人たちだったりして、若かった私は本当に理解に苦しみました。いまでも理解に苦しみますけど。

qianchong.hatenablog.com

とまれ、大地を守る会は「原理主義者にならないように、地に足の着いた自然食・有機農産物販売をやろう」と、最初から市民運動団体ではなく株式会社化して発足させたのだそうです。この先見の明はちょっとすごいと思います。最近は近所のスーパーでも有機野菜やオーガニック食品が買えるようになっていますが、久しく遠ざかっていた産直をまた利用してみようと思いました。というわけで、さっそく「おためしセット」を申し込んでみました。

www.oisix.com

今回の対談は主に流通の視点がメインの「食べる」でしたが、今後は生産場所の話、最終的な消費場所である家庭での料理についての話についても聞けたらいいなと思いました。