インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

台湾や中国のリノベーション物件

先日参加してきた「SUSONO」のイベント、対談の中で佐々木俊尚氏が「日本の観光地で現在、中国人観光客が騒いでいるのに眉を顰めている人がいるけれど、数十年前の日本人もああだった。にぎやかでゴージャスが好きだった」というようなお話をされていました。

qianchong.hatenablog.com

うん、確かにそうだったかもしれません。筒井康隆氏の『農協月へ行く』という小説もありましたね。ただ、最近の華人、それも若い人たちは日本の若い人たちと同じ感覚で同期しているなあと感じることがあります。あるいは日本人よりもさらに先の「心地よさ」を、その鋭い嗅覚で発掘しつつあるとも。

例えば、すでにいささか旧聞に属しますが、『左京都男子休日』という本が話題になったことがあります。台湾に住む男女三人組が京都観光をするのですが、金閣寺平安神宮などの典型的な観光地ではなく、ブランドショップなどの買い物でもなく、左京区の普通の街角にひそむ「ふだんづかい」で心地よい場所の魅力を紹介しているのです。

seikosha.stores.jp

私も、人の多いところに行くと「人酔い」してしまう体質なので、海外へ旅行したときには人がたくさん集まる観光地にはあまり行きません*1。それよりも普通の街並みや、市場やスーパーや、路地裏などをのんびりと歩くのが大好きなので、このお三方の感覚には大いに共感するものがあります。

ところで、「SUSONO」のトークイベント「住む」では、昨今のリノベーション人気も取り上げられていました。伝え聞くところによると、実は中国や台湾でもリノベーションは盛んです。というか、日本とはいささか異なり、マンションやアパートなどは内装がほとんどない状態で手に入れて自分なりのDIYをするという、どちらかというと欧米の人たちの感覚に近い住宅事情のお国柄なので、このあたりは『Casa BRUTUS』でもぜひ特集してくれたらいいなと思います。もちろん『BRUTUS』や『Pen』などでも、中国語圏の新建築に関する記事はたびたび登場してはいますが。

先月台北で一週間ほど滞在したホテルも、MRT大安駅からすぐの場所にあるリノベーションホテルでした。観光のためのホテルというより「住むように旅する」のにぴったりなたたずまい。外観を見ると分かりますが、このどこか懐かしい低層の団地を思わせる建物、かつてはある銀行の社員寮だったそうです。

富藝旅台北大安 Folio Daan Taipei

www.folio-hotels.com

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※上の大きな写真は徳久撮影、下の小さな写真六枚はホテルのオフィシャルサイトから。

内装・外装ともにシンプルで美しいリノベーションが施され、とても居心地のいい、なおかつリーズナブルな宿泊料金のホテルでした。表参道ヒルズの端っこに残されている旧同潤会アパートにもどこか似ていますね。

また中国でも、建築といえば超高層ビルや奇抜なデザインばかりが紹介されますが、こちらの動画のように心地よい空間をリノベーションで作り出している例を見ると、心地よさやくつろぎ、安らぎ、あるいは「ヒュッゲ」的な価値観は、いまや様々な場所で同時進行的に根を下ろしつつあるのかもしれないと思います。

youtu.be
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日本の方も登場しています。こちらなども「明るいナショナルから陰影礼賛へ」を体現したような住まいと暮らし方ですよね。

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余談ながら、この「一条」というYouTubeのチャンネルは大好きで、映像や音楽の美しさもさることながら、内容があまり難しくなく分量もちょうどいいので、よく通訳訓練の教材に使わせていただいています。
www.youtube.com

*1:台湾では中正記念堂や九份にさえ行ったことがありません。さすがに故宮博物院には行きましたが、人の多さにやっぱりちょっと後悔しました。