インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

若者能

「若者能」を見にいってきました。

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wakamononoh.jp

能楽喜多流シテ方の塩津圭介師が中心となって、学生さんや社会人が実行委員会形式で毎年行っている能楽入門的なイベントです。入門編とはいえ、番組(プログラム)は解説に始まって舞囃子狂言、能と盛りだくさん&本格的。今年は舞囃子高砂」、狂言「清水」、能「羽衣」と新春にふさわしい演目が並びました。

ほかにもロビーでは、呈茶席や鏡板(舞台の奥にある松の絵の描いてある壁ですね)を模した背景がしつらえられた撮影スポット(「インスタ映え」します)、VRの技術を使った能楽体験(能楽師が舞台上で見ている風景を体験できます)、能楽のプロモーションビデオ上映などがそこここで行われており、上演中はLINEで(しかも日英2言語で)解説が入るという「至れり尽くせり」ぶり。若い方々が中心になっている実行委員会の方々のアイデアがふんだんに盛り込まれています。


若者能とは?


DO YOU KNOW? I WILL NOH

上演前の解説も、実行委員会の若いお二人で進行が行われ、能楽堂全体の照明を落として「まだ能楽に明るくない状態」から解説を始め、徐々に照明を明るくしていくという面白い演出でした。舞囃子が終わった後すぐに狂言が始まるのですが、その時に休憩のアナウンスが途中まで入っちゃった(本当は狂言が終わった後に入る予定だった)のもご愛敬。そして何より、そういう小さなミスも笑って受け止める観客の寛容さがとても心地よかったです。みなさん、このイベントの主旨をよくご存じだからこそ*1

また、このイベントが画期的なのは未就学児の鑑賞も大歓迎という点。塩津圭介師の言によれば、「未来の能楽ファンを今から養成」しちゃおうという「魂胆」だそうで、小さなお子さんが多少歓喜の声をあげたり、むずがったり、泣き出したり、うろちょろしたりしても、大目に見ましょうよというコンセプトです。いや、これもまた寛容の精神で実に心地よかったです。

正直、ふだんの私なら能楽堂でイビキかいて寝ちゃうおじちゃんとか、あめ玉の包み紙をガサガサさせるおばちゃんとかにいちいち「キーっ!」となって、お能の鑑賞どころではなくなることもあるほどの「非寛容」ぶりなのですが、今回ばかりはお子さんたちの素直な反応にかえって心が和み*2、感動が深まりました。

今回はネット上のコミュニティSUSONOでもイベントをご紹介して、関東圏や、遠くは名古屋からも見に来て下さった方がいたのですが、そのうちのおひとりはお子さん連れでした。楽しんでいただけたかしらん。そして、なにがしかが心に残って将来の能楽ファンになってくださったらいいですね。

個人的には能「羽衣 舞込」の終盤、天女が天に帰っていくところで、本当に空高く天女が舞い上がって小さくなって、それも微笑みながら手を振っているように見えて、天女の気持ち、それを見送る漁夫白龍の気持ちが手に取るように分かった気がしました。最近お能を正面一番前のかなり右寄り、ちょうどワキ柱の辺りから見るのが「マイブーム」になっているのですが、この位置から見ると、ワキ方の漁夫白龍と揚幕に消えようとする天女との遠近感がより強調されて、劇的効果が高く感じたようにも思えます。「羽衣」はこれまでに何度か観ていますが、今回は特に感慨深かったです。

プログラムが全て終わった後に、塩津圭介師と狂言方の野村太一郎師によるアフタートークがあり、さらには協賛企業からのお土産(和菓子)までいただきました。いやあ、本当に盛りだくさん。実行委員会のみなさな、素晴らしいイベント体験をありがとうございました。

「若者能」は来年も開催されると思います。運営スタッフも募集中とのこと。ご興味のある方はぜひこちらからどうぞ。
http://wakamononoh.jp/#anc02

*1:多くの協賛企業から出資を募り、一般客の入場料からも一部を充当して、25歳以下の入場料をなんと1000円に抑えているのです。たぶん出演した能楽師のみなさんも多少の「手弁当」があるのではないでしょうか。これは推測ですけど。

*2:切戸口から地謡のみなさんが出てくると「なんかでてきた!」、演目が終わって舞台がはけると「いなくなっちゃったね」など、じつにかわいいです。