読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

オリジネイターに対する敬意

先週と先々週、通訳スクールの教材にこの映像を使ってみました。


魅蓝note2发布会全程视频- YouTube

中国のスマホメーカー魅族(メイズ)の新製品「魅藍note2」の発表イベントです。6月2日に開催されたばかりの映像がもうYouTubeに公開されていて、それを早速使用してみたというわけです。通訳教材は鮮度がよくないと訳出時のモチベーションが落ちるので、こうやってなるべく新しい素材を手に入れるべく日々アンテナを張るようにしています。

前の学期では同じ中国のスマホメーカー小米(シャオミ)の新製品発表会を教材に使ったんですが、小米といい、今回の魅族といい、その製品のデザインから、発表会のスタイルから、宣伝や広告の意匠から、販売店のインテリアから、ひとつひとつがはっきり申し上げて「Appleの真似っこ」。いやもう、ここまで模倣し倒していると、いっそ清々しく思えてくるくらいです。

もちろん小米も魅族も、AppleiPhoneでこの世に送り出したイノベーションを土台にして、独自のアイデアを盛り込み、さらには本家iPhoneを超える使い勝手の良さや心躍るユーザ体験を作り出しているんですけど、そしてそもそも世に数多あるAndroidスマホのほとんどが「iPhoneの真似っこ」であることは誰もが知っていることなんですけど、私がこの動画を見て感じたのは「凄いな、面白いな」という感覚*1と同時に、この人達にはここまで真似させてもらっているご本家に対する敬意、あるいはもっと言っちゃうとある種の「疚しさ」みたいなものが微塵も感じられないなということでした。

まるで一から自分たちが創造したかのように話しているこの「どや顔」的たたずまい。この映像では、iPhoneにおいてあるアプリの起動中に前画面に戻る際、スマホの左上隅の「戻る」を押さなければならないという使い勝手の悪さに学んで、ホームキーの半押しで「戻る」を実現した「mBack」という機能が声高らかに紹介されているんですけど、その目の付け所が素晴らしいなと思う一方で、「iPhone」と同じネーミング方法で「mBack*2」と名付けちゃう、その「果たしてプライドがあるんだかないんだか全く分からないなこの人達は」的ふるまいに眩暈がしてしまうわけです。

あ、もちろん発言者の「たたずまい」がどんなものであろうと、通訳は通訳。全く切り離して訳出に取り組むべきなのは言うまでもありませんが。

内田樹氏が『街場の中国論』でこんなことを書かれています。

 ご存じのようにかの国においては他国民の著作物の「海賊版」が市場に流通しており、コピーライトに対する遵法意識はきわめて低い。
 それによって、現在のところ中国国民は廉価で、クオリティの高い作品を享受できている。
 国際的な協定を守らないことによって、短期的には中国は利益を得ている。
 けれども、この協定違反による短期的な利益確保は、長期的には大きな国家的損失をもたらすことになると私は思う。
 それは「オリジネイターに対する敬意は不要」という考え方が中国国民に根付いてしまったからである。
(中略)
 「オリジネイターに対する敬意」を持たない社会では、学術的にも芸術的にも、その語の厳密な意味における「イノベーション」は起こらない。


増補版 街場の中国論』「グーグルのない世界」
グーグルのない世界 (内田樹の研究室)

世の中に全くのゼロから創造されるものなどほとんどなく、すべては先人の模倣から新しいものが生み出される、それは分かっているつもりです。でも小米や魅族、あるいは先般ネットでも話題になっていたユニクロをそっくり「真似っこ」した「メイソウ」のような企業に代表される、ある種無邪気なまでの「オリジネイターに対する敬意」の欠如は、明らかに度を超していると私は考えます。こうした「貪便宜(虫のいいことをする)」な行為がやがて回り回って、中国という国の衰退につながるのではないか。この点で私は内田樹氏の見立てに共感を覚えます。

ところで。じゃあYouTube動画を無断で教材に使用しているお前はどうなんだ、「オリジネイターに対する敬意」を欠いているんじゃないのかという内なる声が聞こえてきました。そう、これ、教材を作るたびにいつも引っかかっている問題です。著作権とか知的財産権的にはどういう扱いになるんでしょうか。

……と、Twitterでつぶやいたところ、こう教えていただきました。


それでも、YouTubeに動画をアップした方自体が配信の権利を持っていなくて勝手にアップロードした場合は問題がありそうですが、とりあえず出典を明らかにすれば特に問題はなさそうでほっとしました。ご教示、まことにありがとうございます。

*1:だからぜひとも教材に使おうと思ったのです。

*2:mはメイズのmですね。