インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

働き方革命

私はいま「フリーランス」という働き方をしています。去年の三月いっぱいで、それまで勤めていた職場を辞めましたから、ちょうど一年経ったことになります。

仕事を辞めた当初は再就職の道も考えてハローワークに通ったり、数多くの転職サイトで求人に応募したりしましたが、中年以降になると採用してくれる企業はぐぐっと減りますね。いや、実際には職種や待遇を選ばなければ仕事はたくさんあるのですが、結局それらの仕事に応募することはしませんでした。もう以前のように早朝から深夜までこまねずみのように働くのはまっぴらごめんだと思ったのです。

それに、はなはだ心許ないレベルながら一応手に「中国語」という職があり、それを見込んで仕事を振ってくださる方々がおり(本当にありがたいことです)、そんな中で失業保険の給付を受け続けるのはなんだかなと思って、ハローワークで「開業」の届けを出し、フリーランスになりました。ハローワークからはいくばくかの「手当」が出ました。

途中で細君のお義父さんと同居して生活の面倒を見ることになりましたが、そのおかげで(?)家賃と光熱費が大幅に削減される結果になりました。これまで払っていた家賃と光熱費の一年分と、この一年間の収入を足してみたら、かつての職場での収入と「とんとん」。収入だけを見れば大幅減ですが、暮らし全体から見ればあまり変わらなかったことになります。

そして「兼業主夫」としての毎日と、以前なら考えられなかったほど大量の自由な時間がやってきました。

もともと「主夫のおばおじさん」志望ですから、家事をこなすのは全く苦になりません。それでも家に居て次々にやってくる家事の「タスク」をこなしていると、あらためて家事労働というのは大変な作業量だなと思います。とはいえ私たちには子供がいませんから、これでも非常に楽なほうでしょう。お子さんがいて、パートナーが家事を分担してくれなくて、なおかつ外で働いている……という方は、本当に大変だなと思います。想像することしかできませんが。

週に何度か、複数の学校へ非常勤講師として出かけています。それに加えて不定期で通訳の仕事をし、在宅で字幕の翻訳をしています。あとは時々イレギュラーな頼まれ仕事。外で仕事をする際には、帰宅が深夜になることもありますが、いつも驚くのは夜の10時、11時という時間になっても、電車やバスにかなり多くのサラリーマン(とおぼしきスーツ姿の男性)が乗っていることです。

私が住んでいるのは千葉県の常磐線沿線で、最寄り駅は都心からは小一時間ほどかかる場所にあります。家はさらにその最寄り駅からバスで20分以上もかかってようやくたどり着く場所です。とはいっても周囲は畑などではなく、びっしり住宅が建て込んでいるようないわゆるベッドタウンですが、そんな場所に夜の10時、11時に帰ってくるサラリーマンがけっこういるんです。お見かけした限りでは、みなさん、お酒を飲んでいい気分というわけでもない。

この方々は、これからお風呂に入って、食事……はもう外食で済ませてるのかな、で、日付が変わる頃に就寝して、明朝9時に出勤だとしたら遅くとも6時には起きなきゃならないでしょうね。お子さんがいても、平日は顔を合わせる時間がほとんどないんじゃないかな。大変だ……いや、大きなお世話なんですけど。

私もサラリーマンをしていたときには、残業、時には徹夜などという長時間労働がデフォルトでしたが、いまこうして自分で自由に時間を配分できるようになって、ひどい働き方をしていたなとあらためて思います。特に働いていた企業がいわゆる「ブラック」だったわけではありません。何度か転職をしていますが、それぞれにやりがいのある仕事をさせてもらった会社でした。それでも結果的にひどい働き方をしていたのは、まずは自分の意識の持ち方のせいであり、つぎにそれぞれの会社の、働き方の変革に鈍感なありかたのせいだったと今にして思います。

働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)

この本は(ようやく本の紹介だ)、以上のようなことを考えてフリーランス一年目を迎えた私にとって、とても共感できる内容でした。たまたま書店で手にとって購入したんですけど、読み終わって「おお、なんというシンクロ」と驚いたくらいで。

具体的には、筆者である駒崎弘樹氏ご自身の体験(多少のフィクション性が加味されていると思われます)に基づいて、長時間労働から脱却して自分の時間を自律的に管理すること、プライベート、特に家族との関係を重視し再構築すること、自分のためだけではなく「他者に価値を与える」ことを含めた働き方を志向すること……などが、なかば小説風に描かれています。

テイストは「自己啓発書」に近く、読むだけで高揚感が湧き何かを成したかのように錯覚してしまいがちな「キャリアポルノ」的読まれ方をする危険性もありますが、そういう「ライフハック」的な部分を自覚しながら注意深く読んでみれば、私たち(とりわけ日本人)の働き方について様々な示唆が得られる本だと思います。