インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

鳩山氏に勉強しろと言われたので勉強してみた

鳩山元首相の尖閣諸島をめぐる発言が話題になっています。


尖閣めぐり物議醸す発言の鳩山元首相、自宅前でも持論を展開(13/06/26) - YouTube

ポツダム宣言に書いてあるでしょう。固有の領土は、北海道・本州・四国・九州、それが固有の領土だと。日本は戦争に負けて、それが固有の領土になったんですよ。この四つの島が固有の領土なんですよ。そのあとは、連合国軍が決める島なんですよ、残念ながら。

記者「官房長官は、開いた口がふさがらないという趣旨でお話をされましたが……」

もっと勉強していただきたいということです。

……ということで、勉強してみました。

ポツダム宣言の関連条文は、これです。

八、「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ
http://www.ndl.go.jp/constitution/etc/j06.html

鳩山氏の言う「そのあとは、連合国軍が決める島」というのはこの「並ニ吾等ノ決定スル諸小島」という部分ですね。ちなみに引用されているカイロ宣言ではこうなっています。

右同盟国ノ目的ハ日本国ヨリ千九百十四年ノ第一次世界戦争ノ開始以後ニ於テ日本国カ奪取シ又ハ占領シタル太平洋ニ於ケル一切ノ島嶼ヲ剥奪スルコト並ニ満洲、台湾及澎湖島ノ如キ日本国カ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地域ヲ中華民国ニ返還スルコトニ在リ
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/01/002_46/002_46tx.html

う〜ん、「台湾及澎湖島ノ如キ日本国カ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地域」というのは何だか曖昧ですね。実はこの部分、最終的にはサンフランシスコ平和条約で明言されることになります。

第二条(b)
日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
第三条
日本国は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及び火山列島を含む。)並びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/docs/19510908.T1J.html

この「北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)」に尖閣諸島が含まれるかどうかがポイントですが、日本政府の公式見解はこのようになっています。

日本は,サンフランシスコ平和条約第2条(b)により,日本が日清戦争によって中国から割譲を受けた台湾及び澎湖諸島の領有権を放棄しましたが,尖閣諸島はここにいう「台湾及び澎湖諸島」に含まれていません。なぜなら,尖閣諸島は,サンフランシスコ平和条約第3条に基づき,南西諸島の一部として米国が施政権を現実に行使し,また,1972年の沖縄返還により日本が施政権の返還を受けた区域にも明示的に含まれているからです。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/senkaku/qa_1010.html#qa11

この点に関して、中華人民共和国側の「異議」に関しても、日本政府の公式見解が出されています。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/senkaku/qa_1010.html#qa12

なるほど、改めて「勉強」してみると、鳩山氏と日本政府の見解の齟齬がはっきり見えてきます。

ところで鳩山氏は香港のフェニックステレビ(鳳凰衛視)のインタビューで、こう述べています。


鳩山由紀夫元首相が中国側のインタビューに対し「尖閣諸島は日本が盗んだと思われても仕 ...
※鳳凰衛視のページはこちら。スクリプトもあります。
http://news.ifeng.com/mainland/special/diaoyudaozhengduan/content-3/detail_2013_06/25/26762979_0.shtml

それは中国側から見れば、盗んだというふうに思われても仕方がない。ならばそれは返すべきだというのはカイロ宣言の中に尖閣が入るだろうということは、そういう解釈は十分に、私は中国側から見れば当然成り立つ話だと、すなわち正に係争地であると。

「中国側から見れば」と言っているのがポイントかと思います。その上で鳩山氏はこう語っています。

日本の政府の、かたくなな態度が続いてしまえば、それはこの日中関係をますます厳しくして、解決というのはとてもあり得ないことになります。過去のところまで認めていくということしか私はないと思っています。

少なくともこの41年前に周恩来総理と、それから田中角栄総理との間で棚上げという、これは文書ではありません、確かに。文書ではないけれども両首脳が合意をしたというのはこれは事実です。

私自身は鳩山氏の主張に必ずしも同意するわけではありませんし、元首相という立場の大きさから、国の公式見解と異なる主張を発する際にはより慎重であるべきだとも思います。それでも日本は言論の自由が保障されているのであり、中国側から見ればこうかもしれない、大局を見据えて時計の針を戻そうではないかという主張はあってもいい議論だと思います。

マスコミの報道やSNS等での反応を見る限り感情的な批判一辺倒のようですが、もう少し落ち着いた議論になればいいのにな、と思います。

ちなみにこの件に関して産経新聞にこういう報道がありました。

鳩山由紀夫元首相は25日夜、香港のフェニックステレビの取材に対し、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の領有権を主張する中国に理解を示す発言をしたことについて、都内で記者団の質問に答えた。

「(中国側から『日本が盗んだ』と思われても仕方がないとは)言っていない。中国側がそう判断をするという可能性があると申し上げた」と釈明した。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130625/plc13062523460021-n1.htm

上記の通り、鳩山氏は「中国側から日本が盗んだと思われても仕方がない」と実際に言ってんだるけど、そこを括弧に入れて「(…とは)言ってない」と仕立てているのは記者の編集。こういう報道手法はちょっと疑問です。昨夜の鳩山氏発言の原ソースが欲しいところ。読者は括弧を外して理解するから、これだけでは鳩山氏は単なる嘘つきになりますね。Twitterなどではそれで大炎上してますけど、少し冷静になって「勉強」してみて、マスコミの報道・誘導に踊らされないという姿勢も必要だと思います。

あとこの鳳凰衛視の動画で、“東京主席記者”として鳩山氏にインタビューしている李淼氏なんですけど、その日本語のクリアなことと言ったら。ホント、こと語学学習に関しては、我々日本人は猛省しなきゃいけませんね(あれ、どこかの機構の人みたい)。