インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

あなどりがたし

  西安二日目は大雁塔と小雁塔、それに西安の城壁見学。
  一日目の疲れを考慮して、午前中はホテルで休憩なり自由行動なりということでしたが、北京へ戻る列車は夜の八時発ですからずいぶんゆっくりしたスケジュールです。大雁塔、小雁塔、城壁とも西安市内にあり、昨日の兵馬俑や華清池に比べればホテルからも指呼の間ですから。
  その一方で、元のスケジュールには入っていた碑林が入っていません。おかしいなと思っていたら、やはり今日もありました、展示即売会。しかも二カ所です。
  一カ所目は大雁塔ツアーに組み込まれていて、現在の大慈恩寺(大雁塔があるお寺)の方丈である増勤法師の書を見学するというので展示室へ。展示室には天皇皇后夫妻訪問時の写真や、なぜか海部俊樹元首相の写真などがあって、増勤法師が一緒に写っていたりします。それら写真の間に書の掛け軸がたくさん。全て増勤法師の書なんだそうで。
  で、法師がいかに素晴らしいお方かということを縷々説いたあと、「この素晴らしいお方の書が今なら日本円で三万円」といきなりTVショッピング状態に。……またこのビジネスモデルですか。
  そういえば展示室を見る前にも寺のあちこちで「この碑文は増勤法師の書です」とか「増勤法師は中国○○仏教協会の要職もつとめたことがあります」などの説明があり、伏線が張られていました。写真のセレクションといい、流暢な日本語での説明といい、完全に日本人観光客向けです。
  でも……買う人がいるんですね。この日もいました。買う人が相当数いるからこういうビジネスモデルが成り立つんです。中国の人だけを責めるわけにはいきません。でも、やんごとなき方々の写真をダシにこのような商売をしていることについて、日本のそれなりのところから「いかがなものか」的物言いはつかないんでしょうかね。ま、セールストークには「売り上げをお寺の修復費に充てます」という一節がありましたから、しっかり予防線を張られちゃってますけど。
  ガイドさんにこっそり聞いてみました。
  「日本だと、こういう所は売り上げに応じて旅行社にキックバックがあったりするんですけど、中国ではどうなんですか」
  日本ではこんなウラがあるけど中国は違いますよね、と相手のメンツを立てながら聞くのがポイントです。
  「それはありません。お客さんは買いたければ買えばいいし、買いたくなければ買わなくていいんです」
  なるほど。

  二カ所目はこれも予定にはなかった「陝西省地質鉱産実験研究所」。研究所ったって、かなり怪しげな街角のビルです。もうここまで来ると笑っちゃうんですけど、今度は石を売るつもりらしいです。
  まずは鉱物の鑑定施設見学ということで鑑定室へ。明らかに長年使われていない設備(だって全てにカバーが掛かってて、その上から厚い埃もかぶってますから)で説明されたのは、鑑定のしかたというよりは宝石についているお役所の鑑定書がいかに信用できるかということでした。
  で、エレベーターで五階に上がると、そこは階下とはうって変わってまばゆい光に満ちた部屋。デパートの宝石売り場みたいです。ハッキリ言って、こんな怪しげなコンクリの建物にこんなにまばゆい部屋があるとは思いもしませんでした。ふかふかの絨毯敷きですよ。
  ヒスイなどを中心にアクセサリーが売られています。売り手はみんな白衣を着ているというのがまた笑えますが、とにかく全員、日本語がとても流暢。
  う〜ん、旅行社に文句の一つも言ってやろうと思っていた私は、ここで変な感慨にとらわれてしまいました。この人たちは本当に一生懸命日本語を勉強して、実際に日本人からお金をまき…いや、ビジネスに使っているのです。それに比べて日本人の中国語学習者で、このレベルにまで到達できる人がどれだけいるでしょうか。いま銀座では多くの中国人がショッピングに集まっていますが、どれだけの日本人が中国語をここまで駆使してセールストークを展開しているでしょうか。
  帰り際、またガイドさんに聞いてみました。
  「こういうところはさすがにキックバックがあるでしょう」
  「いえ、ありません。でもここは政府の施設ですから、案内した人の数を年間で合計して、その数に応じて政府の観光施設、例えば兵馬俑の無料入場券を割り当ててもらえたりします」
  とても素直に答えてくれましたから、ガイドさんに悪意がないことは明らかです。これが中国流なんですね。
  でもね、日本ではそういうのもキックバックと呼ぶと思います。