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インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

西太后とフランス帰りの通訳

西太后とフランス帰りの通訳 (朝日文庫)
  通訳や翻訳に関する本はその圧倒的多数が英語に関するものなので、書店で平積みになっていたこの文庫本を見つけた時は、思わず中身も確かめずに買ってしまいました。
(ネタバレがあります)

  清朝末期の外交官である裕庚卿の娘・徳齢は、今でいう「帰国子女」ですね。生まれてからのほとんどを外国で過ごしたため英語とフランス語に堪能で、なおかつ両親が中国語も厳しくしつけたのだとか。
  というわけで、父親が任務を終えて帰国し、当時の最高権力者である西太后へあいさつするため参内した際にその才能を見込まれ、西太后の通訳者になったのだそうです。
  とはいえ、この本には通訳現場のエピソードはほとんど登場しません。徳齢は最初から完璧に通訳をこなしています。その意味では期待はずれでしたが、筆者の主眼は通訳者としての徳齢ではなく、異文化の目から見た清朝末期のありようを描写することにあるようで。まあ、幕末から明治期に来日した外国人の日本見聞記と同じようなジャンルですか。傾国へのアクセルを踏み続ける西太后の散財ぶりや専横ぶりはかなりの迫力があります。
  そう思って読み進むと、今度は西太后のセリフが気になり出しました。
  「わらわは玉よりも阿古屋の真珠よりも、新しい花が好きなのじゃ。ところで徳齢、宮廷生活はどうじゃ? そなた、気に入ったかえ?」
  役割語というんですか、「〜じゃ」とか「〜だのう」といったキャラの立ちっぷりが少々過剰な感じがしますし、徳齢自身のキャラも「なんて素敵な方。私のタイプだわ」などと、これまたえらくお嬢様お嬢様しています。西太后と徳齢を中心に、まるで見てきたかのようなドラマチックで細かい会話が延々と続くので、「本当に史実なのか?」という思いを禁じ得ませんでした。参考文献の欄には、徳齢自身が書いた回顧録と思しき書籍が並んでいますが……。
  薄い本なので、一気に読み終わってあとがき。

裕徳齢のイメージを、私なりに思いきり膨らませた。

  「ずこっ」と椅子から転げ落ちそうになりました。ううむ、『三国志』に対する『三国(志)演義』みたいなもの?