インタプリタかなくぎ流

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中国語教育とコミュニケーション能力の育成

  学会などでの論文や中国で出版されたものを除くと、日本で中国語教育に関する本が出ることは極めて珍しいです。これまでだって、長谷川良一氏の『中国語入門教授法』や輿水優氏の『中国語の教え方・学び方』くらいしかありませんでした。というわけで、胡玉華氏のこの本も、発売されるや即購入して読みました。
  文法知識の獲得を主として目指す「わかる」中国語教育から、コミュニケーション能力の育成を主眼に置く「できる」中国語教育への転換をうたう本書、理論的な前提を述べる前半は自分の仕事の現場に照らしても考えさせらる内容がそこここにあって、わくわくしながら読み進みました。特に「『何年も習ったのにちっとも役に立たない』という恨みがしばしば学校の外国語教育に向けられる」という問題意識には首肯することしきりです。
  が、具体的な方策を提示する後半は、音読やシャドーイングの効用を説く部分が興味深かったものの、全体としては実験結果を統計学的に分析、証明することに収斂していて、少々期待はずれな読後感になってしまいました。いや私、何か仕事に生かせるアイデアをいただけないかしらという下心を持ちすぎですか……。
  私は学者ではなく、論文も書いたことがないのでよく分かりませんが、そうした統計学的な証明によらなくても説得力のある論というものを以前は多く読んだような気がします。でも現代では、やはり論文として認められるためにはこうした「統計学的に有意」な科学的裏付けが必要不可欠なのでしょうね。