インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

上有政策,下有對策。

  今の仕事場は都心のオフィス街にある。オフィス街とはいえ、繁華街ではないので、商店やコンビニやレストランのたぐいが極端に少ない。一方でオフィス人口は増えるばかりだから、ランチに関しては極端な需要過多に陥っている。

  そこであちこちに弁当屋さんが登場するようになった。和食系あり、中華系あり、イタリアンレストランのまかない風あり、オーガニック原料の玄米カレーあり。どこも一律五百円で、こっちが味噌汁をサービスすれば、あっちは缶入り茶をおまけにつけ、さらには大盛りでも同料金を打ち出すなど、健全な競争が展開されて集客を競っている。人気の弁当屋には、店開き前からそこここで到着を待つ「ファン」がいるほどだ。
  弁当屋もお互いに棲み分けができているようで、適当な間隔で並んでいる。小さなワゴンでやってくるタイプは大通りから一本入った通りの脇に止まっているし、大通り側に出店しているタイプは車を置かず、徒歩でやってきたスタッフが道ばたに陣取り、他のスタッフが車で届ける弁当を受け取って店開きをする。大声で呼び込んだり客引きをしたりすることもない。
  要するに、弁当屋も客も、それなりの秩序を守りつつ「ランチ需要過多」に対処してきたのだ。
  ところが。
  ある日を境に表通りからも裏通りからも弁当屋が一掃された。道ばたにはこんな看板が立っている。

警告 この付近道路での弁当販売は取り締まりをします。

  ど〜してそんなことをするかな、富坂警察署。
  弁当販売ったって、十一時半から十二時過ぎまでのたった四十分ほどだ。裏通りは袋小路だから交通を著しく妨げるということはない。表通りは前述のように、車を使わない工夫をしていたのだ。おかげで、周囲の数少ないレストランは前にも増して長蛇の列となった。
  昼時にはパトカーが「取り締まり」のために巡回している。んも〜、ちょくちょくやってくる街宣車はちっとも取り締まらないくせにさあ。
  そりゃまあ違法は違法だし、ポピュリズムに立脚してエラソーに語るのも危険だけれど、いいじゃんねえ、「お目こぼし」があっても。
  いくつかの弁当屋は、弁当を手押しカートに乗せて周囲を徘徊するようになった。これなら「店開き」じゃなくて、単に歩行者が荷物を押してるだけだからね。とはいえパトカーも巡回しているし、カートを押しているおばさんたちはとてもやりにくそうだ。
  私はといえば、これを機に弁当を作って持参するようになった。ま、これはこれで楽しいんだけど。

追記

  仕事場のとなりに大きなビルがあって、その地下一階に小さな小さな売店が入っている。おばさんが一人で切り盛りしているような店で、外部の人にはほとんど知られていないくらいの規模なのだが、ここが今、お昼時は大変なことになってる。この店で弁当が売られていることを聞きつけたサラリーマンが、周囲のオフィスビルから大挙して押し寄せるようになったのだ。
  売店のおばさん、弁当の入荷を大量に増やしたらしい。機に聡いな〜、商売上手だな〜と思っていたら、売りさばいているのはかつてそのビルの前で弁当を売っていたおじさんだ。どうやら売店のおばさんに頼んで、ランチタイムだけ店の片隅を借りているもよう。もとより狭い店内、文字通り猫の額ほどのスペースで窮屈そうだが、客も自主的に協力して、セルフサービスでご飯とおかずのパックを選び、お金を渡している。いや、いい話だ。