インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

セミナー通訳

  台湾政府高官が台湾経済の展望を語る講演会、逐次通訳。

  事前にエージェントから、百五十ページ近くあるパワーポイント資料が送られてきた。CSMだのFTZだのOEMだの、ニッチだのロジスティクスだのコアコンピタンスだのといった横文字がびっしり詰まったもので、講演時間は一時間半だからまさか全部はしゃべらないだろうなと思いつつ、一応すべて予習。
  当日、ブリーフィングに望むと、「全部しゃべりますよ」とおっしゃる。
  「もちろん要点をかいつまんでね。今からそれをレクチャーします」
  それから機関銃のようにしゃべる講演者について、必死にメモとり。米国帰りの博士だそうだが、この方は相当に頭の回転が速いというか、キレるというか、話がこちらの理解の二歩も三歩も先を行っている感じ。それでもエリートにありがちな、冷たく傲慢な態度はみじんも感じられなかった。久しぶりに「大人(ターレン)」然とした方に出会う。
  「日本の皆さんは、どちらかというとコンサバティブですよね」
  「は? こんさば?」
  「今日のようなセミナーは、きっと堅い雰囲気なんでしょうね」
  「ええ、まあ」
  「というわけで、講演の最初にちょっとしたジョークを『かまし』ます」
  ジョークの通訳はかなり緊張する。訳出で笑いを取らなきゃいけないからだ。不安そうな私に、「しゃべっちゃったら面白くないでしょ」とイタズラっぽく笑いながらもきちんとネタを教えてくれた。
  「日本人が分かりやすいように、翻案してしゃべってくれていいからね」
  通訳者を使い慣れているね、この方は。
  ブリーフィングが終わって講演会場に移動してみると、なんと通訳学校のかつての恩師がいる。でもって、隣に座って数字などの聴き取りをサポートしてくださるとか。それはすごくありがたくも超弩級に緊張するというかなんというか。
  一時間半はあっという間に過ぎて、なんとかかんとか業務完了。聴衆の何人かから名刺をいただいて、「次はうちでお願いします」と言われた。これはかなり嬉しかった。