インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

歯科医も様変わり

  左右下側の臼歯に入っている金属の詰め物をセラミックのものと交換することになり、まずは金属を取り除く。この作業自体は虫歯の治療と同じだが、以前この歯に虫歯ができたときに受けた治療と違うのは、麻酔をすることだ。いまは虫歯を削る際にも麻酔をするのだろうか。
  二十歳代の頃、虫歯を何本かやって通院したことがあるが、その頃は虫歯治療で麻酔などしなかったと思う。だからすごく痛かった。今回は虫歯ではないとはいえ、同じような作業なので身を固くして椅子に横たわる。
  「ここにも古い時代の詰め物がありますね。アマルガムといって水銀が少し入っているんです。やはり換えて正解ですよ」
  「う…ういいん?」
  「あ、でも、ほんの微量ですから」
  ほんの微量でもいやだ。
  治療中は麻酔が効いているのでほとんど痛さを感じなかったが、歯の奥に器具が当たると、あの独特の、何とも形容しがたい鈍い痛みが走る。
  そういえば歯科医の器具もかなり進化している。小学生の頃は、治療台の周辺に回転するベルトにつながったドリルだの、消毒のために常に灯されている火だの、ほとんど「責め具」みたいな器具が並んでいたものだが、今は一切お目にかからない。そのかわり、歯の周囲で「ピッ」と音を立てながら何かを確認している機械だの、歯を削るときに粉塵を吸い取るノズルだのが使われている(……ようだ。目をつぶっているから、しかとは確認できない)。
  器具が口に入るときは必ずもう一本、唾液を常に吸い取っているノズルが入るようになったのはいつ頃からだろうか。昔は唾液を吸い取るための脱脂綿が口中に詰め込まれて、冬ごもりの準備をするリス状態になっていたものだが。
  古い金属を取り除いたら、型取りをして、仮の詰め物をしておしまい。次回は今日取った型をもとに作るセラミックをはめ込むのだそうだ。

追記

  今日の治療でも感じたが、昔に比べると歯科医の説明が非常にこまかく、ていねいになった。「インフォームドコンセント」というのか、それぞれの作業の前にかならず説明が入る。
  「これから歯の表面を掃除します。歯自体が削れることはありません」
  「ふぁい」
  「見本のセラミックは分かりやすいように少々色を変えていますが、実際には境目が分からないくらいになります。ただしガラス成分が少し入っているので、あまりかたいものを噛むと欠ける恐れがあることをご承知ください」
  「ふぁい」
  「なるべく少ない通院で完了するように努力しますから」
  「ろうも」
  医療界全体が以前とはずいぶん違う意識になってきたのだろうか。顧客(患者)獲得競争が激化していることもサービス向上の一因なのだろう。
  雑誌『FACTA』のフリーコンテンツによると、いま、歯科医師の過剰が問題になっているそうだ。現在日本には歯科診療所が六万七千カ所以上もあり、これはコンビニ(約四万店)をはるかに上回る数だと指摘する。なるほど、そう言われてみれば街には歯科医の看板が多いような気がする。これだけ「あちこちにある感」が強いコンビニをはるかに上回るとなれば、確かに過剰だ。
  同誌によれば、歯科医師が増えすぎた結果、所得格差も広がっているという。

厚労省の2005年医療経済実態調査などによれば、歯科開業医(1医院の平均歯科医師数は1.4人)の儲けを表す収支差額の平均値は1カ月当たり120万円程度。これを歯科医1人当たりの平均年収に直すと800万円になるが、高額所得者はほんのひと握りで、5人に1人は年収300万円に過ぎない。さらに100人中5人は申告所得がゼロ。ワーキングプアは決して誇張ではないのだ。
http://facta.co.jp/article/200708015.html

  はああ、これはすごい。
  歯列矯正を始めるとき、ネットで評判のよい歯科医を三軒選び、いずれも実際に訪れてカウンセリングをしてもらった。最終的に家から最も遠い歯科医を選んだのだが、他の歯科医からはその後もかなり長い間DMが届き、年賀状まで送られてきた。歯列矯正の患者を一人「獲得」すれば、専門学校や大学に一年通えるくらいの収入が見込めるのだから、歯科医も必死なわけだ。
  その専門学校や大学にしたって、同じように獲得競争が激化しているのだけれど。人ごととは思えない。

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