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インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

通訳スクール

  中日訳の授業三回目。台湾芸能人のインタビュー、逐次通訳。

  これは実際に私が受けた仕事を再現した教材だ。音源は某所から入手したもので、日本人インタビュアーの質問、台湾芸能人の回答、それに通訳者の音声まで入っているとてもリアリティのあるもの。授業では通訳者の訳出部分だけとばして使った。つまり生徒は日→中/中→日双方向の訳出練習をすることになる。もちろん中→日が圧倒的に多いが。
  私自身かつて通訳スクールに通っていて、いちばん不満、というかやりにくかったのが、教材で使われる音声のあまりに無機質で平板なことだった。スクールの職員が録音したとおぼしき、一定スピードの、何の抑揚もない、原稿を棒読みしたような音声。原稿棒読みだからもちろん冗語はない。言葉を選んだり、言いよどんだり、間が開いたりということもない。私だけかもしれないが、こういう音声を通訳するのは非常に難しい。言葉が生きていないから、音声を聞いても何の印象もイメージもわかないのだ。そういう音声は記憶したりメモを取ったりするのも非常にやりにくい。
  このクラスはスクール全体の位置づけとして、逐次通訳の完成を目標にしている。ということは、アテンド通訳のような比較的短く簡単で、ノートテイキングもそれほど必要としない通訳だけでなく、インタビューや講演などでの数分間におよぶこともある発言をていねいに忠実に訳せなくてはならない。しかも逐次通訳は発言者と一緒に壇上に立つことが多いから、それなりのパブリックスピーキングが要求される。
  そんなこんなで、実験的に実際のインタビュー音声を使ってみることにしたわけだ。最初は短く切りながら、その後は徐々に長くして実際に通訳者が訳出しているのと同じスパン(30秒から1分くらい)で訳出してもらうことにした。
  まず授業一週間前に、簡単なインタビュー内容を記した紙を配布。その内容を元に予習してきてもらった。この紙には本人の名前や出演ドラマの題名が中国語で書かれている。当然、本人の日本での通称、日本放映時のドラマタイトル、本人の役名(台湾版、日本版とも)、それに本人の簡単なプロフィールくらいは調べてくるだろうと期待する。
  そこで授業前に「小テスト」をした。半分以上の人はもちろん調べてきていて、なかにはドラマのあらすじや本人のその他の活動などについて事細かに予習してきた人もいたが、逆にほとんど何も書けない剛の者も。生徒全員でメーリングリストを共有しているから、私をクライアントに見立てて「もっと詳しい資料は入手されていませんか」などと聞いてくる「芝居っ気」のある人はいないかなと期待していたのだが、これはさすがにいなかった。
  生徒さんのパフォーマンスは本当に千差万別だが、調査をしっかりやって、リスニング力があり、メモ取り技術に優れている人は、長い発言でもあまり情報を落とさずに訳出してくる。まあ、当然と言えば当然だ。中国語のネイティブスピーカーはリスニング力にほとんど不安はないはずなのに、自信なさげに訳出したり、声が極端に小さかったりでもったいないなあと思う人が多い。また一部には日本語の「てにをは」や語彙が不安定な人もいる。上手な人の一部には自信たっぷりだけどかなり作っちゃってる人もいて、これはこれで問題。
  全体的にいちばん弱いなと思ったのは、これは自分の能力を棚上げして言っちゃうけど、日→中のつたなさ。日本人はかなり言葉尻にとらわれて、ボロボロと言ってもいい状態。中国人や台湾人は流暢だけどフォーマルさ、あるいはホスピタリティに欠けている。もう少しゆっくりと、相手を立てて発言を促すような言い方をすればいいのに、「さあ答えろ!」みたいな雰囲気(ご本人にその気はなくても)に聞こえる。