インタプリタかなくぎ流

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もし、日本が中国に勝っていたら

もし、日本が中国に勝っていたら
  《如果日本戰勝了中國》という刺激的なタイトルのこの本、趙無眠*1氏が発表した論文の全訳だ。侵略・被侵略の歴史を事実に即してありのままに探究しようという姿勢のこの本、そのあまりに自由な発想ゆえに当然当局の逆鱗に触れ、中国大陸ではもちろん一般に流通してはいない。
  ところがインターネットや口コミを通じてかなり広範に知られた論文のようで、翻訳をした富坂聰氏によれば「圧倒的多数の中国人がすでに趙氏論文の存在を知っており、自分なりの感想を持っていた」のだそうだ。日本のマスコミで画一的に伝えられる、独裁政権のプロパガンダで単一の見方に染まった彼の地の人々というとらえ方がいかに皮相的なものか分かる。
  ひとつとても新鮮だったのは、「日本が中国に加わる」という発想を披露していることだ。趙氏は、歴史を正しく学べば、中国にいったんコミットした外来勢力は、そこから生半可なことでは抜け出すことができないことがわかるという。そして中国に「溶け込む」可能性を夢想するのだ。

日本という一国、または中国という一国。互いに単独では欧米人から見て心から畏怖されるに足る国とはいえない。しかし、日本のように発展した中国、または中国のように広大な国土を有する日本というのであれば、どうだろう。もはや西洋人に蔑まれることはないはずだ。

  何だかとてつもないトンデモ論議に聞こえる。言葉の裏を読む必要もあるだろう。けれど、論をここへ持ってくるまでにこの本で説かれている内容を踏まえると、すごく新鮮に響くのだ。訳者による注も親切で読みやすい。

*1:もちろんペンネーム。《水調歌頭》の“轉朱閣,低綺戶,照無眠”から取ったのだろうな。